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なぜ友人の家には1リットル入りの醤油が2本あるのか

たまたま居酒屋で隣あわせた人と話が弾み、そのまま連絡先も交換せずに別れた。 電車の向かい側に座った人をずっと眺めていた。 一期一会といえばそれまでだけど、その時の会話が、表情が、何気ない何かがずっと頭に残って離れない…… スズキナオさんの毎日はそんなモノで溢れている。そこで湧き上がる気持ちを彼はこう表現することにした。 「むう」と。 この世の片隅で生まれる、驚愕とも感動とも感銘ともまったく程遠い、「むう」な話をとくとご覧あれ。
あなたの家にはお醤油は何本ありますか?
そしてそれはどこにしまっていますか?
いつ頃買い足してますか?

冷蔵庫を開けるたび、ごちゃごちゃしたドアポケットが目に入るのを、いつも見なかったことにする。前々からここを整理しなければと思ってはいる。だが、別に今日じゃなくていいだろう。ちょっと疲れているし、それに冷蔵庫を開けたのは空腹だからであって、つまり急ぎの用があるのだ。

とにかく今は無理。バタン(キャベツとソース焼きそばを取り出し扉を閉める)。

冷蔵庫のドアポケットの混乱にいざ立ち向かえば

そうやって昨日の自分から明日の自分へとパスされ続けてきたドアポケットの混乱。
満を持して立ち上がった今日の私がそれを受け止めよう。

詰め込まれているものを確かめてみる。
わが家の冷蔵庫のドアポケットは、大きく分けて上段・中断・下段の3つのゾーンに分かれている。
まず下段手前の方に牛乳、オレンジジュース、豆乳、ペットボトル入りの緑茶などが立ててあり、ここは頻繁に中身が入れ替わる。いわば新陳代謝が活発なエリアだ。
その奥にもう一列分のスペースがあり、ポン酢、白だし、チリソース、かき氷用のシロップ、カルピスの原液などが詰め込まれている。こっちは少しごちゃごちゃしている。頻繁に使うものもあれば、年に1、2回の出番しかないようなものもある。

中段にはソース、マヨネーズ、ケチャップ、チューブ入りのわさびやカラシなどがプラスチック製のカゴに突っ込むようにして収められているのだが、このカゴの下の方には薬局でもらった目薬や乾電池なんかも入っているから油断ならない。目薬も乾電池も冷蔵庫で冷やすと長持ちすると聞いたけど、本当なのだろうか。真相を確かめもせず、なんとなくここにしまってある。というか、いつもらった何のための目薬なのかすら、もはやすっかり忘れている。

上段は瓶詰の調味料がしまってあるエリアなのだが、ここにあるものを使用する頻度は非常に低い。買ったはいいが辛すぎてほとんど使ってない柚子胡椒。賞味期限が2016年9月17日のもみじおろし、賞味期限の記載はないが見るからにカッチコチに固まってしまっている「かんずり」という新潟生まれの辛味調味料などが、ずっとここにある。

その隣のプラケースには、どこの何に付属していたのかわからない「タレ」とだけ書いた小袋、持ち帰り用の寿司に添えられていたのであろう小袋入りわさび、「551蓬莱」の豚まんについてきたものと思われるカラシなどが雑にたくさん詰まっており、自分のだらしなさを見せつけられているようで一つずつ確認するのが嫌になってくる。

だめだ。やっぱり一旦閉めよう。バタン。

私がこうして冷蔵庫を開けてその中身を確かめていたのには理由があった。そこに醤油が入っていないかと探していたのだ。きっかけは、友人から聞いたこんな話だった。

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スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。
WEBサイト『デイリーポータルZ』『メシ通』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。
著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、パリッコとの共著に『酒の穴』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『“よむ"お酒』など。
Twitter●@chimidoro

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