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角界・究極のベビーフェイス横綱の2020年初場所はいかに~鶴竜(力士)

広島カープを、プロ野球を、いやいやスポーツ界をこよなく愛するイラストレーター、オギリマサホ。その愛ゆえか、職業柄か、なんだか気になる、なんとも魅かれる、スポーツ選手たちの顔、顔、顔……見渡せばスポーツ界にはイケてる顔面が大豊作。愛すべきその面々、ちょっと斜め下から分析しちゃいます!
常に穏やかで礼儀正しく、感情を激しくおもてに出すことのない印象の横綱、鶴竜。だがその柔和な表情の裏側には怪我に泣いたくやしさ、勝負への熱意が潜んでいることは、数々の取材エピソードやコメントから想像に難くない。得意手は右四つ、寄り、下手投げ、もろ差しで、そのベビーフェイスとは裏腹な攻略的に攻める相撲とのギャップもまた、ファンにはたまらない。

「ベビーフェイス」とか「童顔」といったジャンルの顔がある。

言うまでもなく、年齢よりも幼く見える、子どものような顔立ちの大人のことを指す。
しかし不思議なことに
「私ベビーフェイスだから、年相応の服とか髪形が似合わなくって困るわ」とか
「私童顔だから、こないだ高校生に間違えられちゃって」などと
自分から言う人に限って、ベビーフェイスにも童顔にも見えたためしがないのはなぜなのだろうか。

逆に、自らをベビーフェイスと名乗っていない人の中にこそ、真のベビーフェイスが存在するように思う。
このコラムの第一回で取り上げた工藤公康もその一人だろうが、私が考えるベビーフェイスの筆頭は、横綱・鶴竜である。

鶴竜の顔は「赤ちゃんみたい」というより、むしろ「赤ちゃんそのもの」だ。

赤ちゃんの顔の7つの条件をすべて満たす鶴竜、まさにベビーフェイスの横綱
赤ちゃんの顔の7つの条件をすべて満たす鶴竜、まさにベビーフェイスの横綱

身長186㎝・体重156㎏(日本相撲協会HPより)という体躯の、妻子もある34歳の横綱に対して赤ちゃんもないだろうが、鶴竜の顔立ちは見れば見るほど赤ちゃんに似ている。

ここで、赤ちゃんの顔の特徴を挙げてみよう。
自称ベビーフェイスの人は、自らの顔がこの7項目に当てはまるかどうかの判断材料にしてほしい。私は残念ながら一つもあてはまらない。

①もちもちの肌
②丸顔
③ぷっくりした頬
④顔のパーツが下に寄っている
⑤黒目がちの瞳
⑥小ぶりの鼻
⑦上唇がめくれた小さい口

鶴竜の顔は、この7項目全てにあてはまる。

加えて、いつも眉毛が下がっている。
今にも泣き出しそうな赤ちゃんの顔である。
日本相撲協会の公式ツイッターでは時折、力士による「赤ちゃん抱っこ撮影会」の様子が報じられているが、鶴竜に関してはともすると抱っこしている赤ちゃんの方が大人びた顔立ちに見えるほどだ。

平成26(2014)年三月場所千秋楽、琴奨菊を寄り切りで破って初の幕内最高優勝を果たした後も、鶴竜は思わず守ってあげたくなるような困り顔をしていた。そして、この優勝を受けて第71代横綱となった鶴竜だが、その後の道のりは決して平坦ではなかった。

苦難の道を歩んできた鶴竜の2020年初場所はいかに

2015年には左肩の怪我で2場所連続休場、その後も腰や足首を痛めるなどし、17年には4場所連続休場という事態にも陥った。翌18年の初場所で復帰し、三月場所、五月場所で連続優勝を果たした鶴竜だが、同じモンゴル出身の横綱・白鵬の圧倒的な強さに比べると、どうしてもインパクトが弱く思えてしまう。
時折「自信がなさそうに見える」とか「横綱としての怖さがない」などと評されてしまうわけだが、実はその評価は鶴竜の相撲そのものではなく、かなりの割合で「困り眉ベビーフェイス」が影響しているのではと睨んでいるが、どうだろうか。

昨年の七月場所では、これまで苦手としてきた白鵬を千秋楽で破り優勝。
祝勝会で両手に鯛を持ってニッコリする鶴竜の顔が何かに似ていると思ったが、そうだあれはお気に入りの「きかんしゃトー●ス」のプラレールを両手に持ってニッコリする幼少時の甥の顔だ。

続く九月場所も初日から4連勝し、ここから快進撃が続くと思われた矢先、3日連続で金星配給、8日目から休場となった。しかもその休場の翌日には、師匠である井筒親方が急逝するという不幸にも見舞われたのである。余談ではあるが、井筒親方も現役時代(元関脇・逆鉾)にはシュッとした印象の弟の寺尾(現・錣山親方)に比べ、愛嬌のある「ベビーフェイス」であった。
その後の十一月場所も腰痛が再発し、初日から休場した鶴竜。陸奥部屋への転属、2場所連続休場を経て、この1月12日から始まる初場所を鶴竜はどのように戦うのだろうか。

ところで「相撲と赤ちゃん」と聞いて連想するのが、地方巡業で行われる赤ちゃんを抱っこしての土俵入りだ。大きな力士に子どもたちが果敢に立ち向かう「ちびっこ相撲」と合わせて巡業の人気イベントだが、安全性の問題で18年から両方とも中止されている。
これに対して力士会の会長である鶴竜は、事あるごとに「ちびっこ相撲や赤ちゃん土俵入りの復活を」と訴えている。ベビーフェイスの鶴竜は、相撲界と子どもたちの将来について考える人でもあった。

今後、「優勝して祝勝会で再びニッコリする鶴竜」も見たいし、「巡業で赤ちゃんを抱えての土俵入りが復活し、赤ちゃんなのか鶴竜なのかわからない鶴竜」も見てみたい。
今年は、いやいつか、それは叶うだろうか。

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新刊紹介

オギリマサホ

1976年東京都出身。イラストレーターとしてシュールな人物画を中心に雑誌や書籍などで活躍。中学1年までは巨人ファンだったのが、中2のときに投手王国・広島カープに魅せられ、広島ファンに転向。そのカープ愛が炸裂するイラストエッセイ『斜め下からカープ論』を刊行。野球のみならず、広くスポーツ界を愛している。
Twitter@ogirim

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