2019.12.10
「しぶこスマイル」と「タラタラしてんじゃねーよ」の驚くべき関係性について考える~渋野日向子(プロゴルファー)
そう、今年の女子プロゴルフ界をおおいに盛り上げてくれた立役者、渋野日向子プロ。その人気とブームには、素晴らしい成績や活躍はもちろんのこと、プレー中も絶やさない彼女の笑顔も一役買っていることは間違い無いはずだ。
前回このコラムで「笑わない男」のことを取り上げた。
今回は一転して「笑う女」の話だ。
もうお気づきだろうが、女子プロゴルファー・渋野日向子のことである。
昨年2度目の挑戦でプロテストに合格して、今季が実質プロ1年目の渋野。5月のワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップでツアー初優勝、7月の資生堂アネッサレディスで初代女王となるなど、着実に実績を積み重ねてきた渋野だが、一躍その名を轟かせたのはやはり8月のAIG全英女子オープンでの優勝だろう。
18番でバーディーパットを決めた瞬間に満面の笑みを浮かべた渋野の映像は、「スマイルシンデレラ」という言葉とともに日本各地を駆け巡り、あっという間にしぶこフィーバーを巻き起こした。ゴルフに詳しくない者でさえ、渋野が着ていたビームスのゴルフウェアを検索し、渋野がプレー中に食べていたお菓子「タラタラしてんじゃねーよ」(スケソウダラのすり身に辛い味付けをした駄菓子で、酒のつまみとしても好まれている)をスーパーで買い込んだほどである。
これまでほぼ無名に近かった渋野ににわかに多くの注目が集まったことは、今月4日、インターネット検索数が前年と比べて急増した人物や作品に贈られる「Yahoo!検索大賞2019」アスリート部門賞を受賞したことからもわかる。また、それに先立ち今月2日に発表された「新語・流行語大賞」でも、「スマイリングシンデレラ/しぶこ」がトップ10入りを果たした(同様にノミネートされていた「笑わない男」はトップ10入りを逃した)。ここまで大きな話題になったのは、やはり渋野の「笑顔」の印象が強かったからではないだろうか。
8月以降、メディアに登場する渋野は常に口角を上げ、白い歯を全開にして笑っている。
「笑顔がトレードマークである」ということを渋野も自認し、メディアも視聴者もそれを求めてきた。
新聞を開けば「笑顔でプレーすると集中力が上がり、好成績になる」というスポーツ心理学専門家の解説が(「朝日新聞」2019年8月10日)、雑誌を開けば「笑う時の目が山形になっていて、非常に運気がいい」という人相・手相鑑定士の談話が載っている(『月刊ゴルフダイジェスト』2019年10月号)。
しかし、常に笑顔でいることなど可能なのだろうか。
渋野だって、ティーショットを打つ時やパットのラインを読む時などは、実に真剣な顔をしている。5月のサロンパスカップで優勝を決めた後には嬉し泣きし、11月の伊藤園レディスで予選落ちした時には険しい顔で引き上げていった。全英女子オープン後の日本記者クラブ会見で「ずっと笑顔でいるためにはどうすればいいのか」と質問され、「ミスショットすると怒ったりするので、ずっと笑顔ではないんですけど、(放送では)怒ってるのを消して笑顔の方をすごい拾って下さるので」と本人が語っていたように、笑顔でいられないこともあるのだ。
ただ、その前の羽田空港での会見では、渋野は「ギャラリーさんたちに楽しんでもらうには、自分が心の底から楽しんで笑顔でやらないとみんな楽しくないと思うんで、そこは心掛けてます」と語っていた。
また「笑顔で努力すれば結果に出る」とも。
自然体に見える渋野の笑顔だが、そこにはプロアスリートとしての矜持が隠されていたのであった。これは我々も見習いたいところである。
しぶこスマイルを会得するための秘儀を発見してしまった
ところで私は今、「タラタラしてんじゃねーよ」を食べながらこの原稿を書いている。
今年8月には品薄になっていたが、今はどうやら落ち着いているようだ。
全英女子オープンの際、渋野は「タラタラしてんじゃねーよ」を、まるでポッキーでも食べるようにパリッ、パリッと前歯で噛みちぎりながら食べていた。
そこでその食べ方を真似してみるが、「タラタラしてんじゃねーよ」はフニッとした食感で、意外に弾力があるため噛み切りづらい。
イーッと口を開き、前歯に力を込めて噛みちぎる。
その姿を鏡で見てみると……
何とそこには、口角が上がった「しぶこスマイル」の私が写っているではないか。
「タラタラしてんじゃねーよ」はもしかすると、格好の笑顔トレーニング器具なのかも知れない。
しぶこを見習って笑顔を心掛けたい人は、ぜひ「タラタラしてんじゃねーよ」を渋野スタイルで食べてみてはどうだろうか。