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彼氏が投資詐欺で逮捕?! はじめての出頭&取り調べ【育ちの良い人だけが知らないこと 第5回】

恥ずかしいやり取りも見られていた

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刑事は衝撃を受ける私の顔色をうかがっているようで、胸の中にざらりとした不快感が残った。
他の女性の存在を知らせることで、私が隠している何かが出てくるとでも踏んだのだろうか。

「あなたが彼に送ったメッセージの文面です」

刑事がそう言って広げた数十枚の用紙にプリントされていたのは、私と隼人のメッセージの記録──初めてメッセージ送った『こんばんは』から最後に送った『大丈夫?何かあった?』という言葉までの全て──だった。

付き合い初めの恋人同士ならではの恥ずかしいやり取りも見られていたことをこのとき初めて知り、自分の隅々まで目の前に刑事たちに掌握されている気がした。こちらは刑事たちの顔と名前しか知らないというのに、不公平ではないかという子供じみた苛立ちを感じ、耳まで熱くなった。

「この『会って話そう』の部分は会わないと話せない内容でしたか?」
「『大丈夫?何かあった?』とあなたが送っていますが、このときの状況を教えてください」
「このパーティーの日の彼の服装を覚えていますか?」
「彼からプレゼントされたものを全て教えてください」

私の気持ちはお構いなしに、刑事はメッセージを印刷した文字を差しながら私に質問攻めをする。
全ての質問に記憶を遡る作業をしながら答えられたこと、それが隼人や他の関係者の証言と一致してたらしいこと、最後まで協力的な姿勢を見せたことで刑事は満足したらしい。
実は共犯の可能性が私に及んでいたことをここで初めて告げられた。
憤慨よりも精神的な疲れが上回り、呆然たる気持ちで自転車に乗ってアルバイト先に向かった。

3度目の出頭

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3度目の出頭が最後だった。

たった3度で狭い部屋に座らせることにも、刑事に頼まれる前に携帯電話をプラスチックのカゴの中に預けることにも慣れて「これが適応能力か」と思った。
刑事はこれまでで一番柔らかい表情で、私が共犯だという疑惑が完全に晴れたことを悟った。今日は寒いですねとか自転車には毎日乗るんですかなんていう世間話さえ振られた。

刑事が作った供述調書を見せられ、合っていれば名前をサインするように言われた。
綺麗な字がびっしりと一枚の紙に並んでいて、そこには私が刑事に話した私のアルバイト先、隼人との出会い、交際中の思い出、突然の別れ、その全てが綺麗にまとめられていた。
署名欄に自分の名前を書くとすぐに帰ることが許され、その日の滞在時間は10分にも満たなかった。

私を外の世界に送り出しながら「他の女性も知らなかったようです」と最後に刑事は言った。
「他の女性もみな彼の正体を知らなかったし、妻子の存在にも気がつかなかったようです」。
彼は完璧な詐欺師だった。だから騙されても仕方がなかった。そう思っていいのだろうか。

刑事の言葉に頭を下げて、警察署を後にした。あれから一度も呼び出しの電話がかかってくることも警察署に行くこともなかった。
隼人がどうなったのかも知らされていないままだ。

驚くべきことに被害者から巻き上げたお金で隼人が購入したプレゼントなどは没収されなかった。
それらをどうしても身につける気になれず全て売り切ると、肩の荷が降りたと安堵すると同時に、隼人のことが好きだった気持ちや彼への感謝や楽しかった記憶などが全て消えていることに気がついた。

それほどまでに刑事に疑われるということが不快で忌まわしいことだったのかもしれない。

確かに嘘をつかれていたし、それによって狼狽えるほど傷つきもした。

だがあれだけ好意を形にしてもらっておきながら、最後は面倒くさかったとか最悪の巻き添えを食らうところだったという感想しか持ち合わせていなかった。

詐欺師とはいえ一度は好きになった人だった。
私は好きになった人に対して「今ちゃんとご飯を食べているだろうか」とか「心細くないだろうか」ということを思いやれる人間だと思っていた。
それなのに実際は、人間が持つ優しさのコアの部分さえ働いていなかったのだ。

人の気持ちほど不確かで曖昧なものはない。
仲の良い友人は私のことを「優しいけど一度見限ったらドライな性格だよね」と表現するが、私はただ目の前の人に優しくされたいから優しく接しているだけで、性根が冷淡で恐ろしく非人情的な人間なのかもしれない。
私が物心ついた頃から持っている「いつか親に見捨てられる」という恐怖はそのまま人間への不信や諦めとなり、そのまま他者へと実践しているのかもしれない。

この連載を通して、昔のパソコンの中のファイルを一つ一つ開くように、記憶の箱を少しずつ開け始めている。
意図していなかったことだが、「良くない育ち」と向き合うことはすなわち過去の自分の体験と向き合うことに結びつく。

私は自分の育ちにどんな決着をつけるのだろうか。

 次回連載第6回は7/2(火)公開予定です。

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新刊紹介

かとうゆうか

1993年生まれ。マーダーミステリー作家。シナリオを担当したマーダーミステリーに「償いのベストセラー」「無秩序あるいは冒涜的な嵐」「ザ キャリーオン ショウ」などがある。共著に「本当に欲しかったものは、もう Twitter文学アンソロジー」。

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