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マッチングアプリで稼ぐ女子大生から学んだ資産形成のリアル【平成しくじり男 第7回】

私小説『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』で注目を集めたの山下素童のエッセイ連載。

前回、大ヒットアニメーション映画『天気の子』についての驚くべき批評が語られました。
今回は、マッチングアプリで出会った女性から学びを得たエピソードです。
イメージ画像:PIXTA
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就活を諦めた女子大生

「いつもはお小遣いを頂いてご飯に行ってるのですが、今日はご馳走して頂けるだけで大丈夫です。よかったら、一緒に焼肉行きませんか?」

新宿の焼肉屋に同行してくれる人をマッチングアプリで募集したら、そんなダイレクトメッセージが届いた。送り主のプロフィールを確認してみると、大学4年生のようだった。

新宿にある自宅近くに前々から気になっている焼肉屋があった。いかにも”町焼肉”という感じの外観で、前を通るたびに店のなかを覗くと、いつも人で溢れていた。いつか行ってみたいと常々思いながらも、外から見た感じ席数は少なく、そのうえテーブル席しかないみたいだったから、とても一人で入る勇気が湧かなかった。かといってご飯を誘える友人もいないので、同行してくれる人をマッチングアプリで募集することにしたのだった。

メッセージはいくつか届いたのだが、いつもはお小遣いをもらっている大学生が今日に限ってはお小遣い無しで会ってくれる理由が気になり、その大学生と焼肉屋へ行くことにした。

   *

少し早めに着いて焼肉屋の前で待っていると、ピンク色のボブヘアをした、白いコートの背の高い女性がやってきた。事前にこちらの服装を伝えていたので、焼肉屋の前にいる僕がメッセージの相手だとすぐに確信したようで、目が合った瞬間に口角をあげて歩み寄ってきた。

「あっ、○○さんですか?」

名前だけ確認して、そのまま焼肉屋に入った。

席に着くと2人ともレモンサワーを頼み、それから肉を注文することにした。僕はハラミさえ食べることができれば他はなんでもよかった。「ハラミを頼むので、あとは好きなものを頼んでください」と彼女にメニューを渡した。

もう33歳になった。数年前から脂が多いものを食べると胃もたれするようになったので、焼肉屋ではとりあえずハラミを確保するようになった。彼女はポテトサラダやカルビを頼んでいた。

「いつも誰かとご飯行くときは、どのくらいお小遣い貰ってるの?」

レモンサワーで乾杯をしてから聞いてみると、普段は1時間あたり1万円を貰っているということだった。それで仲良くなった人とはホテルに行くこともあって、そのときは1時間3万円をお小遣いとして貰うのだそうだ。「この前は頻繁に会っているおじさんとホテルに行ったあと、推しがいるコンカフェで一緒に飲んだんだけど、コンカフェは私の趣味だから、その時間だけはお小遣いは貰わなかった」とも言っていて、お小遣いをもらう関係といえど、意外と複雑なのだと思った。

「それで、今日はなんでお小遣い無しでよかったの?」

メッセージを貰ったときから気になっていたことを聞いてみた。どうやら持病のため新宿にある精神科に薬をもらいに来る日だったみたいで、すっぴんだし別にお洒落もしていないから、お小遣いは貰わないということだった。

   *

話をしているうちに、店員が肉をもってきた。さっそくハラミを焼きはじめようと思ったら、彼女が2人前分のカルビ8枚すべてを、一度に網の上に並べて焼きはじめた。8枚も一気に焼かないほうがいいのに、と思った。

焼肉屋に来るたびに思い出すことがある。

23歳のころ。Twitterで知り合った経営者の男に焼肉屋に連れていってもらったときのことだ。その人は自分より10個以上も年が上だったし、自分は焼肉を奢ってもらう立場でもあったから、少しでも肉を焼くことに貢献しようと、提供されたカルビを網のうえにギチギチに敷き詰めて焼いたことがあった。

「火が大きくなるから一気に焼くなよ」

と、その男から注意を受けた。その頃の自分は、肉を一気に焼くのはよくないということを知らなかった。たちまちカルビからは脂が落ちて火が大きくなり、すぐに網を交換することになった。

「脂が落ちて火が大きくなるから、一度に8枚も焼かないほうがいいよ」

そう彼女に伝えようかと思ったが、どうせ今日だけの行きずりの関係であるし、注意をすることで今この瞬間の空気を壊すのもどうかと思い、黙って眺めることにした。やがてカルビから脂が落ちて網の下の火はどんどんと大きくなり、カルビはとてつもないスピードで焦げていった。彼女は焦げていったカルビから順に僕の皿のほうに移していった。

「今って就活中なの?」

焦げて苦味の強くなったカルビを食べながら聞いてみた。マッチングアプリのプロフィールに「大学4年生」と書いてあったからだ。

「私はどうせ社会でうまく働けないから、就活はしてない」

と彼女は言った。

僕も大学4年生のころ、就活をしていなかった。大学を卒業してそのままなんとなくニートになり、一年くらいフラフラしたあとに第二新卒でIT企業の正社員になった。しかし数年で嫌になって退職代行でやめて、それからは知り合いの仕事を手伝いながら33歳までなんだかんだ無事に生きている。

大学4年生のときに就活なんかしなくとも、意外と生きていくことはできるものだ。そういう存在が目の前にいるということが伝われば少しは気が楽になるのではないかと思い、「就活しなくてもなんとかなるよ、僕もしていなかったし」と言うと、

「まぁ私、満額でNISAやってるし」

と彼女は言ってから続けた。

「この活動で月に100万円近くは稼げてるし、今のままNISAでインデックス投資を満額で続けていけば、老後の資金は困らないっしょ」

そう言いながらスマホをいじりはじめたかと思うと、スマホの画面をこちらに見せつけてきた。そこにはChatGPT画面のスクショが表示されていた。

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新刊紹介

山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

X(旧Twitter)@sirotodotei

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