2026.1.15
大ヒットアニメ『天気の子』は「池袋素人童貞モノ」の歴史を継承している?!【平成しくじり男 第6回】
特異なカメラの存在感
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それでは逆に、こうは考えられないだろうか?
作品のなかで「WE ROAD」を登場させ、そのシーンで主題を描いている作品の主人公は、素人童貞ということではないか?
新海誠監督の映画『天気の子』の話に戻ろう。
この記事の最初に言ったとおり、『天気の子』にも「WE ROAD」は登場する。それは物語の中盤。異常気象で災害級の雨が降り山手線が運休した際に、宿泊できるラブホテルを求めた帆高と陽菜が、浸水した「WE ROAD」を横並びで歩くシーンだ。
このシーンはまさに『天気の子』の主題そのものを描いてる。
そもそも『天気の子』とは、どんな話だったか。
離島から異常気象に見舞われる東京に家出してきた16歳の帆高は、歌舞伎町のネットカフェに泊まりながらマクドナルドを居場所にしていた。そこでバイトをしていた陽菜が、こっそりビッグマックを無料で差し出してくれる。
そんな陽菜が歌舞伎町の路上でスカウトの男たちから夜職に勧誘されているとき、偶然そこに居合わせた帆高が恩を返すように陽菜のことを助ける。そして2人きりになると、陽菜がバイトをクビになってしまったこと、それから、陽菜が天気を晴れにする力を持っていることを打ち明けられる。
帆高は天気を晴れにする能力を活かすことで陽菜が自分の力で稼げるよう、晴れにする力を売るサービスを立ち上げるが、晴れを願うと陽菜の体の一部は透明になってしまい、やがて陽菜は東京の空を正常化させることと引き換えに地上から姿を消してしまう。
消えてしまった陽菜を助けるために帆高は空へとワープし、積乱雲のうえにいる陽菜のことを見つけだすと、「青空よりも俺は陽菜がいい、天気なんて狂ったままでいいんだ」と思いを伝えながら、陽菜の手を取って一緒に空から地上へ向かって真っ逆さまに落ちる。そして東京はまた異常気象に見舞われる。
『天気の子』の主題は”愛する人と共に生きること”だった。物語の結末で、帆高は異常気象の世界を陽菜と共に歩むことを選択した。そんな結末を踏まえて振り返ると、物語中盤の「WE ROAD」のシーンは、まるで未来を予兆していたかのように思える。
「WE ROAD」のシーンではまだ、帆高は陽菜の体が透明になることを知らないし、陽菜の天気を晴れにする力を活かしながら一緒に生きていけると信じていた。しかし「WE ROAD」のシーンで描かれていたのは、災害級の大雨のなか足を濡らしながら、帆高と陽菜が横並びで歩く姿だった。その2人の姿は、異常気象の世界を共に歩むことを選んだラストシーンと重なる。そんな風に解釈できるのも、『天気の子』が「WE ROAD」を描いたシーンでその作品の主題そのものを描いてしまっているからだ。
その作品の主題を「WE ROAD」を通して描いてしまうこと。そのことこそが、”池袋素人童貞モノ作品”の特徴だった。そうした意味で、『天気の子』は紛れもなく”池袋素人童貞モノ作品”の歴史を正当に継承している作品なのだ。
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それでは最後に残されている問いについて考えてみよう。『天気の子』の主人公は、果たして素人童貞なのだろうか?
普通に考えれば主人公は16歳の帆高だ。帆高が素人童貞な可能性はまずあり得ないし、他にも、性風俗で童貞を喪失したような登場人物は存在しない。それでは他に手掛かりが全くないのかというと、そうでもない。まだ謎に包まれている存在が一人だけいるのだ。
『天気の子』は不思議なアニメだ。雨のシーンで『天気の子』の世界を映しているレンズに水滴が付着したり、太陽を映すシーンでレンズ内部に光が反射するレンズフレアが描かれたりする。ふつう、アニメというものはその世界のことを映しているカメラが存在するようには描かれない。しかし『天気の子』は、まるでドキュメンタリー映画みたいに特定の誰かがカメラを持って目の前の世界を映しているかのように、カメラの存在が描かれているのだ。
そのカメラこそが、帆高が上京した最初のシーンでバニラ求人のトラックを映し、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(村上春樹訳)の書籍を映し、売買春の相場である2万円がおじさんから陽菜に手渡しされる瞬間を映し、「体験入店!?」と性風俗でしか使われない単語を口にする女性を映すことで、やたらと『天気の子』の世界のなかに性風俗を連想させるシーンを散りばめていた。
もう、主人公が素人童貞どころの話ではないのだ。私たちが『天気の子』を見ているときの視点そのものが、素人童貞の視点なのかもしれない。
次回連載第7回は2/19(木)公開予定です。
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