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推しからの突然の電話? 冷めてしまった柴田勝家のたった一つの願い

せめて平穏無事に卒業してくれれば

 やがて冬が来て、三回目の織田きょう生誕祭が開催された。

 今回は豊臣めめちゃんと合同での生誕祭で、二人を推している人々で店内は一番の客入りとなった。今日ばかりは織田軍も揃っており、猫さんもルシファーも、のぶにゃんもいた。スタンドフラワーは二人合わせて五個くらいは出ていた気がする。当然、ワシらも事前の準備を続けており、プレゼントで渡す色紙と花束、ライブで使うサイリウムの用意も万端だった。

「今日は、ありがとうございました」

 そしてイベントが終わると、常連客は店の近くに集まって円陣を組んでいた。今の今まで描写してこなかったが、実はこれも戦国メイド喫茶に伝わる一つの伝統行事だ。イベントが終わると、何気なく常連で集まって挨拶をし、次のイベントの主催や進行を話し合って共有する。

「皆さんの協力もあり、織田豊臣イベントも無事に終えることができました」

 織田軍を代表してワシ、そして豊臣めめちゃん推しの筆頭とで交互に挨拶をしていく。もう慣れたものだが、一方で寂しく思う瞬間があった。

(きっと今年が最後の生誕祭だろう。こうして挨拶するのも、後は卒業式だけかもな)

 きょうちゃんも来年で四年目。就職活動を始めることを周囲にも言っていたから、たいていの常連は最後の年だと意識しているはずだ。

(もう、やり尽くした思いはある。せめて平穏無事に卒業してくれれば)

 ワシが感慨にふけっていると、いつの間にか全員が手を広げていた。挨拶も全て終わったようで、最後に一本締めをするのが恒例となっていた。

「勝家さん、最後お願いします」

「あ、ああ!」

 ワシが音頭を取り、円陣を組んだ全員で一本締めを行う……、と見せかけて三本締めに移行、途中で「オイ!」の掛け声。さらに最後は。

「しゅうとく!」

 で、終わり。どういう訳か、戦国メイド喫茶ではイベントを修徳三本締め(修徳高校の応援。とんねるずがよくやる)で終える伝統があったのだ。

(つづく)

 次回連載第22回は9/22(木)公開予定です。

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柴田勝家

しばた・かついえ
1987年東京生まれ。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程前期修了。2014年、『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞し、デビュー。2018年、「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」で第49回星雲賞日本短編部門受賞。著書に『クロニスタ 戦争人類学者』、『ヒト夜の永い夢』、『アメリカン・ブッダ』など。

Twitter @qattuie

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