よみタイ

勝家の戦国メイドカフェ一番槍

アイスココアの悲劇

 カエサルの言う通り、店内には楽しげなアニメソングが流れ、壁掛けのモニターでは戦国メイド喫茶がテレビで紹介された回を流している。メイドさんたちの数も多く、誰もが明るく話しかけてきてくれる。

「オムライス、なに描きますか?」

 今となっては懐かしいが、オムライスに絵を描いてくれたのは毛利元就の娘だという毛利あずみちゃんだった。腰元に妖怪ウォッチのジバニャンのぬいぐるみを下げていたから、そのままジバニャンをオムライスに描いてもらった覚えがある。さらにチェキも毛利あずみちゃんとで撮った。またも文芸部の部室に賞金首のチラシが増える。

「この店、当たりだな。カエサル」

 すでにワシは戦国メイド喫茶を気に入っていた。実に居心地が良い。賑わいがありながら、一人でも過ごせそうな落ち着きがある。何よりメイドさんの接客が良い。付かず離れず、こちらが暇になりそうなタイミングで軽く話しかけてくれるのだ。

 そうしたものだから、つい時間も忘れてしまう。

「あ、先輩、そろそろ90分スよ」

「おっと、そうだな。長居しても新入生に悪いし、帰るとしよう」

 かくしてベテラン感を出しつつ会計を行うが、そこで事件が起こる。

「あれ、ドリンク足りてます?」

 メイドさんからの問いかけにワシとカエサルは顔を見合わせる。

 そう、ここで誤算がある。チャージは90分だが、ドリンクは1時間ごとに1杯頼むことになるため、二時間目ということで二杯頼む必要があったのだ。つまりワシら6人で12杯、すでに6杯は飲んでいるが倍は注文する必要がある。

 ならば、取る手段は決まっている。

「フフ、カエサル。あとは、わかるな」

「ウッス……」

 ここで文芸部の先輩組、新入生を90分のチャージで先に帰らせることにし、自分たちは30分だけ延長して通常の二時間分の滞在を選ぶ。さらに、1年生たちの足りない分のドリンクを先に注文し、二人で飲むことを決めたのだ。

「こうすれば、誰も悲しまないッスね」

 さすが法学部である。会計時に状況を把握し、システム的に問題ない範疇に収めることに成功したのだ。

「だが、1人で3杯もアイスココアを飲むことになるとはな」

 テーブルの上には大量のアイスココアが並んでいる。なお会計に時間がかかっていたため、30分延長したというのに次のチャージまで残り15分を切っている。この時間で飲み物を飲みきらなくてはいけない。お腹を冷やすかもしれない、そんな覚悟が必要だった。

 その時、悲愴な表情で大量のドリンクを飲むワシら二人を一人のメイドさんが目撃していた。武田ほむほむちゃんという娘だが、無言で飲み物をすするワシらを心配して何度も声をかけてくれた。

「ごちそう、さまでした……」

 そして、ワシらは死んだ目で会計を済ませ、帰りのエレベーターに乗り込んでいく。メイドさんたちはワシらを見送りに来てくれるが、誰も彼もが心配そうだ。当然だろう、明らかに口数が少なくなっている二人の男だ。それでもワシらは楽しかったと告げて手を振る。

 そして外で待ってくれていた新入生たちと合流し、ワシらの秋葉原探索は終りを迎えた。

ワシはくじけない

 なお、この話のエピローグとしてはこうだ。

「あ! この前、ずっとドリンク飲んでた人!」

 後日、ワシが戦国メイド喫茶を訪れた時、武田ほむほむちゃんが開口一番、そう声をかけてきてくれた。

「あんなことになって、もう二度と来てくれないと思った!」

「来るさ、良い店だ」

 その通り、ワシはくじけない。

(つづく)

 連載第4回は12/23(木)公開予定です。

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柴田勝家

しばた・かついえ
1987年東京生まれ。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程前期修了。2014年、『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞し、デビュー。2018年、「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」で第49回星雲賞日本短編部門受賞。著書に『クロニスタ 戦争人類学者』、『ヒト夜の永い夢』、『アメリカン・ブッダ』など。

Twitter @qattuie

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