2021.12.9
勝家の戦国メイドカフェ一番槍
賞金首の如きチェキ
さて、暇な大学生であったワシは未だにメイド喫茶探訪を続けていた。
あの日から、カエサルを含めて文芸部の何人かで様々なメイド喫茶をめぐることにしていた。学校をモチーフにした店、忍者をモチーフにした店……、数多くのコンセプトで様々なメイド喫茶が営業を続けている。秋葉原は魅力の尽きない場所だった。
いくつかのメイド喫茶を回る中で、だんだんと振る舞いも覚えてきた。だいたいどこの店も1時間くらい遊び、メイドさんがライブをするのを見守り、全員でチェキを撮ったりしていた。ワシらがメイド喫茶を訪れるたびに、文芸部の部室の壁にはチェキが貼られていく。その数は増え続け、まるで賞金首のチラシのようだった。
戦国メイドカフェとの邂逅
そして、その日が来た。
「勝家パイセン、また来週もメイド喫茶行きましょうよ!」
カエサルは行く場所を決めかねていたので、ワシは以前に秋葉原系のニュースを伝えるウェブサイトで知った「戦国メイド喫茶」なるものに行くことを提案した。言うまでもなくワシは柴田勝家であったし、戦国時代に里帰りする気分であった。
「いいッスね! 後輩誘っていきましょう!」
快諾するカエサル。なお当日は1年生の女子ばかり集めてきていた。このカエサルという男は、まるで馴染みのバーを紹介するようにメイド喫茶を案内する。実に鼻持ちならない男だが、ワシも後々に似たような感じで人を誘っていたから何も言えない。
そして、ワシは後にあまたのドラマを生む場所、あの戦国メイド喫茶に足を運ぶことになる。
スマホで店を調べ、路地に迷い、やっとの思いで雑居ビルを探しだした。エレベーターに乗って、扉が開くと同時に目に入ってくる空間。入り口には織田家の木瓜紋に似た家紋がデカデカとある。我々が来たことがホールへ伝わると、制服を着たメイドさんがやってくる。
「はじめて登城された方ですか?」
やがては部屋着レベルに見慣れる戦国メイド喫茶の制服。しかし、この時は初めて見るものであった。フリルのあしらわれた和風のメイド服というのは新鮮だった。入店前のメイドさんの説明も実に丁寧だ。
「皆さんは500年前にタイムスリップしてきました」
ワシにとっては里帰りである。
「それからメイドさんに触ったり、連絡先を聞いたりするのは禁止です。もし破ったら、打首、切腹、島流しになります!」
「気をつけろよ、カエサル」
「カカーッ! 大丈夫ッスよ。それにオレ、法学部なんで!」
素晴らしい自信である。さすが文芸部でも異質の法学部出身者。こういった決まりごとを守り、システムを理解することにかけては頼りになる。
「では、お席へご案内しますー。お館様、姫様のご帰城でーす」
1年生の女子たちを席に通し、プレイボーイ然としてメイド喫茶のいろはを伝えていくカエサル。ワシはこの男を信頼して全て任せている。さて、そこで現れるのが戦国メイド喫茶のシステムだが、ここも1時間ごとにチャージとドリンクが必要になるという。この辺は他のメイド喫茶と一緒なので問題ない。などと思っていると──。
「そういえば、初陣セットっていう、はじめて来た方限定のお得なセットがあるんですよー。飲み物と食事、ロシアンたこ焼きにチェキかライブが全部一緒になってて~。チャージも90分になるんです~」
なんともお得な話である。もはや変に玄人感を出すより、素直に楽しんだ方が良いことに気づいている時期である。カエサルとアイコンタクトをし、1年生を含めて六人分の初陣セットを注文した。
「なんか、雰囲気良いっスね。店も広いし」