2021.11.11
その日、ワシは征夷大将軍になった
160万円をメイド喫茶で使った人間が到達できる
平成28年(2016年)8月、柴田勝家、秋葉原に帰還。
折しもSF作家としてのデビュー作である『ニルヤの島』が文庫化し、着物姿で都内の書店をまわっていた日である。最後の訪問先である秋葉原の有隣堂を後にし、ワシは早川書房の担当者たちと別れて一人で街へと繰り出した。UDXビルの横を通って末広町方面へ。袴を風になびかせて堂々と歩き、目当ての雑居ビルのエレベーター、いや、時空転送装置へ乗り込む。
信じられないかもしれないが、この時空転送装置に乗っていくとタイムスリップできる。その店では、そういう設定になっている。その場所に行く者は誰であれ戦国時代の有力者となり、南蛮渡来の飲み物や料理を楽しみつつ、名だたる大名や武将の娘たちと会話を楽しむことができるのだ。
つまり戦国メイド喫茶である。
「御館様のご帰城です!」
店に入ればメイドさんの明るい声が響く。一般的なメイド喫茶なら「ご主人様のご帰宅です」となるところだが、さすが戦国といったところだ。
「勝家だ! 勝家さんが来たぞ!」
席に通されるまでの間、先に来ていた常連たちが声を上げる。皆、ワシの友人たちでもある。彼らに手を振りつつ、まさしく凱旋の気持ちで進んでいく。
「征夷大将軍様のお成り~」
そして、ワシはそう呼ばれてメイドさんに案内される。よもやの肩書は征夷大将軍。主君の織田信長公でさえ得られなかった武門の頂点である。それがどうして、ただの柴田勝家に与えられたのか。
まず、この戦国メイド喫茶ではポイントカードシステムを導入している。会計が1000円ごとに1ポイント、それが40ポイントでカード1枚が満了。足軽組頭から始まり、それが2枚で足軽大将、3枚で侍大将、5枚で家老、10枚で大名、20枚で征夷大将軍にまで到る。つまり合計40枚、約160万円分をメイド喫茶で使った人間が到達できるものだ。
「勝家! 勝家将軍!」
すなわち、この店における征夷大将軍とは――。
「うむ、今日も変わりないな」
やべぇヤツに与えられる称号である!