2020.3.30
夫が消した社内定期預金の行方
全てが消えた……
チキ子夫婦と子供三人。
いよいよ夫の会社の借り上げの、
ファミリー向けの賃貸マンションが手狭になった。
これまでの間、夫の給料から積み立てた社内定期預金は、
それなりにまとまった金額になったはずだ。
とある週末、夫の両親の家に家族で顔を出した帰り道、
「それそろ社内定期預金を頭金にして、
マンションか家を買わないか」
とチキ子は夫に水を向けた。
夫だって「いつまでも賃貸」とは思ってないだろう。
ところが夫の返事は「あぁ。うん」と歯切れの悪いものだった。
チキ子は不安がよぎった。
夫の社内定期預金は一般の貯金ではないから、
中身を確認する通帳はない。
次の日、チキ子は、
夫の給料の振込みの普通預金の通帳を持ち出し、
信金のATMで記帳をしてみた。
チキ子が次女の出産のため、
実家に帰っていた時期、
夫の普通預金口座に、
生命保険会社と社内定期預金をしている自社から、
まとまった金額の入金があり、
それがその当日、全額現金で引き出されていた。
チキ子は、夫の口座のキャッシュカードは持っていて、
それで必要な分の出し入れや振込をしていたので、
一日のうちにされた大きな金額の入金と出金には、そのときの残高はATMの画面で確認できたが
気付くことができなかった。
夫は、生命保険と社内定期預金を、
自分で勝手に解約して、
そのお金を全部どこかに動かしていたのだ。
チキ子は、通帳に記帳された、
自分たちの生活には不釣り合いな、
高額な金銭の入金と出金の数字に、
目眩がした。