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南和行「離婚さんいらっしゃい」

夫が消した社内定期預金の行方

チキ子の手堅い選択

チキ子はそんなに勉強ができるほうではなかった。

それでも地元の中の上の偏差値の高校に進学したから、
周囲のほとんどは「都内か神奈川か埼玉の四年制大学」に、
なんとなく進学した。

チキ子も少し頑張れば進学できる四年制大学はあったが、
別にこれといった勉強をするわけでもないのに、
4年分の授業料を払うことはもったいないように思った。

それでチキ子は昔から知っている、地元の短大に進学することにした。

「特にこだわりがないなら、就職先は金融か生保がいいと思うわ」

というのは、短大に進学することがきまったチキ子が母に言われたことだ。

金融や生保なら、一般の従業員でも、
経済の仕組みや、金融や資産の仕組み、
社会保障や税金の制度のことを勉強できるから、ということだった。

そしてチキ子は真面目に就活をして、
地元の信用金庫に就職をした。

今から思うと、チキ子の就活のとき、
父の生保での役職が、地元の支社長だったことが、
うまく働いたのかもしれない。

家族には就活のことを全部話していたから、
もしかしたら父が声をかけてくれたのかもしれない。

チキ子が短大を出て就職した春、
兄も都内の四年制の国立大学を出て、
外資系の大手生保に就職した。
社会人になったら自立すると言っていた兄は家を出た。

チキ子は相変わらず自宅から、
母が作ってくれる弁当を持って仕事に出かけていた。

就職して一年が過ぎ、
弟が関西地方の大学に進学することになったとき、
母から「父とチキ子のお弁当を自分で作るように」と言われた。

チキ子は、デキる主婦である母のもと、
料理や家事は母に頼りっきりだったから、

毎朝、自分と父のお弁当を作ることに、
最初は難儀した。

そうこうしているうちに母が、
コンビニのレジ打ちのパートを夕方まで入れることにしたため、
と言うようになり、

定時で帰れた日は、
チキ子が両親と自分のぶんの三人分の晩ご飯を、
作るようになった。

今から思えば、「花嫁修業」を、
知らないうちにさせられていたのだろう。

兄と弟が家を出て、
チキ子と母と父の三人暮らしになっても、
チキ子ら家族は相変わらず円満だった。

そんな中、いよいよチキ子も家を出るときがきた。

チキ子は結婚することになったのだ。

勤務先の信金の同期。
同期とはいっても相手は四年制大学を出ているから、
2才年上だった。

チキ子の勤める信金の中では高学歴で、
何より真面目だったから将来に心配はなさそうだった。

チキ子は短大の頃、
友人の紹介でなんとなく「付き合った」彼氏はいたが、
それも自然消滅で、
恋愛経験はほとんどないに等しかった。
ただ、結婚する相手となる信金の同期は、
清潔感があるところがチキ子の父親と似ており、
言葉も丁寧で表裏がなさそうだった。

だからデートに誘われて、
相手を意識するようになって半年くらいで、
「結婚しませんか?」と言われたとき、
特にためらわずに受け容れた。

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南和行

みなみ・かずゆき●1976年大阪府生まれ。京都大学農学部、同大学院修士課程卒業後、大阪市立大学法科大学院にて法律を学ぶ。2009年弁護士登録(大阪弁護士会、現在まで)。2011年に同性パートナーの弁護士・吉田昌史と結婚式を挙げ、13年に同性愛者であることを公言する同性カップルの弁護士による弁護士事務所「なんもり法律事務所」を大阪・南森町に立ち上げる。一般の民事事件のほか、離婚・男女問題や無戸籍問題など家事事件を多く取り扱う。著書に『同性婚―私たち弁護士夫夫です』(祥伝社新書)、『僕たちのカラフルな毎日―弁護士夫夫の波瀾万丈奮闘記』(産業編集センター)がある。
大阪の下町で法律事務所を営む弁護士の男性カップルを追った、本人とパートナー出演のドキュメンタリー映画『愛と法』が話題。
・なんもり法律事務所
http://www.nanmori-law.jp/
・南和行のTwitter
https://twitter.com/minami_kazuyuki
・吉田昌史のTwitter
https://twitter.com/yossy_nan

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