2019.5.22
動物の義肢装具の製作所を訪ねる。年間、約3000匹の犬猫を救う技術と熱意
12年前は依頼が月1件。今は年3000件!
人の義肢装具は古来使われてきて、日本では1987年に「義肢装具士」が国家資格となりました。島田さんが12年前に動物専門の義肢装具製作所を開業した頃、依頼は月1件程度だったとか。獣医師の間で徐々に広まって10年前に月20件を超え、現在では年間、約3000件の依頼が届くまでになりました。
義肢装具は役割によって「義肢」と「装具」に分かれます。義肢には人の義手や義足にあたり、動物の失われた四肢の代わりに装着するもの。装具は四肢や体幹(首や胴)の症状を治す「治療用」と、機能を補助する「更生用」があります。
「患者となる動物は99%が犬で、猫が0.5%程度です。猫は犬より関節がやわらかいので体を傷めにくいのでしょう。残りの0.5%はウサギ、インコ、ヤギなどです。動物の義肢装具は人用の技術を応用して製作しますが、体型や生活環境などの違いが多すぎるため、獣医師の協力をいただいて日々研究を重ねています」(島田さん)
オーダーメイドの義肢装具は採寸が命
島田さんの義肢装具は動物病院の依頼で製作するため、飼い主が直接購入することはできません。どんな動物でも獣医師の診断や手術の後、採寸→型紙の作成→石膏の作成→義肢装具の製作→動物に義肢装具をフィッティング、という手順で行います。
「オーダーメイドの義肢装具が必要な場合、採寸やフィッティングのときに足を運ぶようにしています。体型や症状に合わせて製作することが重要だからです。実際に行って見ると、まれにオーダーメイドが必要ない場合もあります。一番良い方法をお伝えしたいので、通信販売で買える他社の製品をすすめることもありますよ」(島田さん)
依頼のたびに出張していると納品が遅れてしまうので、動物病院で採寸やフィッティングができる既製品や半オーダーメイド品も開発。いずれの製品も獣医師の定期チェックで不具合があった場合、調整や修理を行っています。
対応できる症状は、椎間板ヘルニア、膝蓋骨脱臼、関節炎、環椎軸椎不安定症、神経麻痺など。獣医師の依頼で会陰ヘルニア用の装具を製作したこともあるそうです。
装具へ関心を持ったきっかけは、義眼を使っていた祖父の存在
島田さんが義肢装具士の道へと歩むきっかけとなったのは、工場の事故で指4本と片目を失い、義眼を使っていた祖父の存在。高校生の頃進路を決めるにあたって、父に義肢装具士の専門学校をすすめられたそうです。もともと物作りが好きで学生の頃は美術部に所属していたほど。手先が器用だったようですね。「義肢装具士なら祖父のような人の役にも立てると思いました」と島田さん。
「義肢装具の技術を学んでいるとき、動物の義肢装具の研究論文がないことに気づいて興味を惹かれたものの、卒業後はひとまず人用の義肢装具の会社に勤めました。あるとき先輩の愛犬が事故に遭って入院することになり、付き添って行ったら動物病院の獣医師が犬用にコルセットを手作りしていたんですよ。それを見て動物の義肢装具を作ろうと思いました」(島田さん)
会社勤めと並行して動物病院でも研修を始めてから5年、日本初の動物専門義肢装具士として製作所を開業し、現在に至るわけです。