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被害者の女〜脳内上書き保存が顕著すぎる話

先日、回転寿司にしては割とお洒落な回転寿司で、大学時代からの友人で、大学時代から恋のお話が大好きで、大学時代からずっと独身だけど、大学時代より随分顔が良い意味で進化した(医療的手段込み)同い年の女と8皿くらい食べながら2時間かっきり話していたのだけど、彼女の話を要約すると大体こんな感じだった。

男性への批判という殻をかぶった真のメッセージ

過日、また彼氏が浮気した。
携帯を見た私も悪いけど、そもそも去年私が風邪をひいて辛い時に女とディズニーランドに行って信用をなくしたのは彼の方であって、その時別れるって言った私をもうしないから、って言って引き止めたのも彼だった。信用がないのだから疑うのは当然。実際彼はまた女とイチャイチャした会話をしていたし、一度泊りに行ったことがあるようだった。アイツは、泊りに行ったことは認めたけどセックスはしていないと言う。それは信じられない。しかも、何度も何度も責めたら、携帯を見たことを逆ギレしてきた。そもそも浮気だけが問題ではない。アイツは生活がだらしなく、時間に遅れがちで、同棲しているマンションの掃除なんて一度もしたことがなく、私が洗濯や洗い物をしている間に平気で携帯いじったりテレビ見たりするし、男友達との予定を優先する。機嫌がいいときは好きとか言って甘えてくる癖に、喧嘩をすると大声を出して私を脅す。自分勝手で人の気持ちがわからなくて乱暴で仕事がうまくいっていれば他は全て許されると思っている。私が彼より偏差値の低い大学を出ていることをバカにしている。自分が専業主婦に育てられたせいで、女は男の全ての面倒を見るのが当然と言う意識で何をしてあげても感謝の心はない。しかもマザコンだ。服の趣味が悪く、その割に私が高い服を買うと嫌味を言ってくる。アイツのことを本当に愛してくれる女などこの先いないし、いたとしてもその愛はすぐ冷めるだろう。私もいい加減彼に見切りをつけて、新しいいい男を探す気満々よ。合コンしよ。

ちなみに私は同じくらいのボリュームの結論がほぼ一緒の話を、昨年のディズニーランド事件の時も聞いたし、今年の正月に彼が初詣の約束をドタキャンして上司と競馬に行った時も聞いたし、先々月に彼が彼女の誕生日プレゼントを用意しなかった時にも聞いた。
もちろんその度に彼女の結論に踊らされてなんとなく飲み会を設定などしてみるが、一週間、一番長くて二週間もすると、「許したわけじゃないけど、今はとりあえず完全には切らないことにした」と控えめな連絡がきて、さらに一週間もたつと、普通に彼は「アイツ」から「うちの彼」に戻っている。
 

加害もするけど男よりマシでしょ
加害もするけど男よりマシでしょ

彼女の話をとある男性への批判文として解読しようとすると、話自体は十分に理解できるし、きっとひどい男なのだろうという想像もできるし、結論には同意できるが、その後の繰り返される展開が理解できない。

だから、女子会に参加しつつも割と男性脳というか、合理的結論を急ぐタイプの女にかかると、彼女はメンヘラの、行動が意味不明な、不幸が好きとしか思えない変な女、なおかつ話は聞くに値しないし聞いた時間が無駄だった、ということになる。
なぜなら彼女の話は、とある男性の批判文の殻をかぶった、「色々辛いことがあったから慰めて優しい言葉をかけてこの辛さを生き抜いていること褒めて?」というメッセージでしかないからだ。

女の被害者物語にはこんな対応でいてほしい

この暴力的なまでの自己PRとストーリーテリングは確かに多くの時間を奪い、一部の女友達を愛想つかす一歩手前までイラつかせ、男子たちには女って非生産的な会話でよく何時間もお茶とかできるよなと呆れられるが、この儀式がないと私たち、なかなか降りかかる困難を凌いで荒々しい道を歩いてはいけない。
っていうか普通に考えて街で刃物を振り回したり妻を殴って酒ビンをホームレスハウスに向かって投げたりするよりはずっといいし、社会に与えてる被害も微々たるものですよね。
だから女の男女七人私は被害者物語は、そこそこ真剣に聞きつつ熱っぽく優しい言葉をかけて、でも内容はそこそこ不真面目に聞き流してあげてほしいのです。

ちなみに河島英五的な立ち位置とはちょっと違うが、加害者意識がある女というのもたまにいて、私は割とそっち系だと思うのだけど、被害者女がメンヘラと言われて面倒くさがられるとしたら加害者女は勘違いブスとか言われて鼻で笑われるので、どっちがマシかはこれはこれで今後議論が必要なところではありますよね。

大好評の本連載は今回をもっていったん終了いたします。8月19日より、本連載のアンサー編として「×××な男〜酒と泪とオトコと美学」がスタート。現代を生きる、さまざまな男の生態を涼美目線で鋭く愛を込めて切り取ります。どうぞお楽しみに!

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新刊紹介

鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中にキャバクラ嬢として働くなど多彩な経験ののち、卒業後は2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、世相に関するエッセイやコラムを多数執筆。
近著に『女がそんなことで喜ぶと思うなよ 愚男愚女愛憎世間今昔絵巻』など
公式Twitter @Suzumixxx

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