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被害者の女〜脳内上書き保存が顕著すぎる話

例えば男は女性専用車両に怒ったり過度なセクハラ弾圧を窮屈に思っても、女に対してデモ隊を率いて加害者意識を持て、と叫ぶことはあんまりないが、女はウーマンリブの流れを汲んでか汲まずか、とにかく会社の上司一人に言うべき個人的なことも政治的な運動につなげて横断幕など縫いがちである。
また、性的虐待など深刻な被害経験を本とかで大々的に発表しがちでもある。
インスタで夫の愚痴を書いてみたり、会社員時代のトラウマティックに嫌な上司の話を顔出しインタビューで答えてみたりするのもわりかし女が多い。

男の悪口は何のために女から発せられるか

さて、こういった大々的なデモや自伝などで東京被害者ストーリーを聞く、というのは一方的に押し付けられた社会人の義務なのだけど、何もそんな大げさなことではなく、日常を控えめに生きているだけで、そういったPRにぶつかることは結構ある。

女子会のハイライト的話題はいつの時代も彼氏の愚痴や旦那の悪口、セックスした男が最低だったという話、などと決まっているのだけど、そういった男の悪口自体に実はそれほど大きな意味はない。ざっくり言って男ってほんと自己中で臆病でバカで最低だよね、というのは女子会を繰り返してきた30代女が大まかにすでに合意しているので、今更事例を並べてその理論を強固にしていったところで別に新しい知見は生まれない。

では男の悪口は何のために発せられるか。

それは自分を被害者と位置付けたストーリーを披露する行為に他ならないのだ。

男がこう言った、私はこう言った、些細な部分では私もちょっと悪いけど、そもそもそれは男がいつもこうだからで、だから私もついこうなってそこは反省してるけど、でもでもでも本当に悪いのは男、だから私は可哀想だけど健気に生きる被害者。

果たして女は被害者なのか
果たして女は被害者なのか

あるいは単純な愚痴だったとしても、

夫って本当に家事への気遣いがない(=私は文句も言わず全ての家事をこなしている)
彼氏が束縛が激しい(=私は束縛されながら辛い日常を送っている)
夫のイビキがうるさい(=私は寝不足で仕事に来ています)
彼氏が酔うと暴言を吐く(=私は昨夜、心が千切れるような言葉を浴びせられた)
セフレが他の女を抱くのもやめない(=私は彼女にしてもらえなくて辛い)
デートした男がケチだった(=私は先週末安い夕ご飯を食べさせられた)

と、基本的にメインの主張はカッコ内の方で、話の主役は男ではなく実は女の自分だったりするわけである。
この構造を理解していないと、女子同士のトークというのはうまくいかない。
というか文字通りの男性批判を真に受けていると、途中でイライラが爆発することがあるはずだ。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中にキャバクラ嬢として働くなど多彩な経験ののち、卒業後は2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、世相に関するエッセイやコラムを多数執筆。
近著に『女がそんなことで喜ぶと思うなよ 愚男愚女愛憎世間今昔絵巻』など
公式Twitter @Suzumixxx

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