よみタイ

人生で一度は食べないと絶対に後悔する焼肉の聖地巡礼(その1)【きみや】

店内では恰幅のいい、いかにも肉が好きそうな店主が笑顔で迎えてくれる。

そしていきなり驚かされたのだが、店主はお客の入店を確認するとおもむろに厨房に入り、注文も聞かずに肉を切り出し始めたのだ。

その後、有無も言わさずテーブルにとんでもない肉が運ばれてきた。
普通の焼肉屋さんではまず見かけることのない分厚いヒレ、というかシャトーブリアン。
そして、こちらもどでかいタンの盛り合わせだ。

ヒレは1枚200g、1人につきそれが2枚やってくる。
つまり1人400gだ。
そしてタンも1切れ40〜50g位ありそうな大きさで、1人2切れ。

お肉には赤い不思議なモミダレがからんでいるのだが、この正体は一切不明。
これはヒレでもタンでも一緒である。

網を覆うほど超弩級のシャトーブリアン。肉バカも思わず目を疑う衝撃的な光景だ
網を覆うほど超弩級のシャトーブリアン。肉バカも思わず目を疑う衝撃的な光景だ

ここで飲み物をオーダーし、最初から机の上に準備されていたキムチをつまみつつ、興奮している自分を落ち着かせる。

お肉はもちろん自分で焼くこともできるが、基本的には店主が焼いてくれる。
店主は巨大なヒレをつまみ上げ、まず1枚を熱々の網に乗せる。

しばし様子を見てから裏返し、頃合を見計らって取り出したのが2本のフォーク。
なんとそのフォークで肉の繊維にそってヒレを引き裂き始めたのである。

次々と1口大になっていくヒレを呆然と眺めていたが、爪楊枝でヒレを切るパフォーマンスを見せてくれた10年前の【ジャンボ篠崎本店】と似たようなものかもしれない。

そして店主は、焼けたヒレを特製のツケダレにつけて食べてみろと言う。
一般的な焼肉屋さんのツケダレ皿の数倍ある取り皿がきみやのツケダレ皿なのだが、その大きさだけでなく、ツケダレを舐めてみると山盛りにされたニンニクを除けば、我々が幼い頃から愛してやまない「エバ○」のタレに近いのがまた衝撃と言える。

そして焼き上がったヒレはとにかく抜群の柔らかさ。
あの不思議な赤いモミダレは、それほど主張が強くなく、口の中では控えめな存在だ。
これであれば、1人400gでも食べることができるのだろう。

タンは仕入れの問題だろうが、この日は真ん中より先側だろうか。
こちらもとにかくボリュームが凄い。

繊維の流れを見極めたフォークさばきに熟練の技が光る
繊維の流れを見極めたフォークさばきに熟練の技が光る

それにしても衝撃的なお店だ。

メニューもないし、注文もとらない。
しかし、そんな不安を軽く吹き飛ばす喜びが待っている。

店主はお店に入ったお客を見て、食べそうか、あるいはあまり食べられなさそうかを判断して微調整するようだが、1人400g超というのが不安な女性や少食な方は予約の段階でその旨を伝えておくことをオススメする。

また客単価が1万円を超えるような高級店でありながら、このような立地で約50年スタイルを変えずに営業し続けていることが本当に凄い。

とにかく驚きと謎だらけの名(迷?)店が奈良に存在する。

また、この独特の雰囲気は奈良でしか味わえないと思うが、大阪には【奈良きみや 別邸】や奈良で修業後に独立した【りきちゃん】があるので、まずはこちらから行ってみるというのもありだろう。

素朴な外観とは裏腹に、強烈な個性を放つ至高の焼肉が待っている
素朴な外観とは裏腹に、強烈な個性を放つ至高の焼肉が待っている
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新刊紹介

小池克臣

こいけ・かつおみ●1976年、神奈川県横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。焼肉を中心にステーキやすき焼きといった牛肉料理全般を愛し、さらには和牛そのものの生産過程、加工、熟成まで踏み込んだ研究を続ける肉の求道者。著書に『No Meat,No Life.を実践する男が語る和牛の至福 肉バカ。』がある。
公式ブログ「No Meat, No Life.」→ http://d.hatena.ne.jp/BMS12/

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