2024.11.18
意思・仲間・知識の他に必要なもの【逃げる技術!最終回】それはお金と時間!
イラスト/藤井セイラ 監修/太田啓子弁護士(湘南合同法律事務所)
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前回の引っ越しとは、意味合いが違う
引っ越しをしました。
いま、新居でこの原稿を書いています。真夜中で、子どもたちは寝ています。ふたりの子どもの間に座って、小さなローテーブルにPCを載せて、タイピングしています。
1年前にこの連載を始めました。
この連載を書く中で、自分の置かれている状況をあらためて俯瞰したり、気持ちを整理することができましたし、監修の太田啓子先生に法的な部分を見ていただいて大変勉強になりました。なにより読んでくださった方に感謝しています。
そして、最終回を迎える直前に、2度目の引っ越しをしたのです。
今回の引っ越しは、わたしにとっても、子どもたちにとっても、前回とはかなり意味が異なります。
最初の引っ越しは、緊急避難的なものでした。
夫の行動を知った児童相談所からは「早くパパと子どもたちを離してください」といわれていました。もしかすると、父子が同じ家に住んだままで、児相が「不適切な養育が続いている」と判断すれば、子どもが一時保護されることになり、親子で離れ離れになってしまうかもしれない。子どもが園や学校に通えなくなってしまうかもしれない。
それだけは避けたくて、なんとか夫とすまいを分けようと、いくつもの賃貸物件を見て、子どもの通学・通園の可能な地域のワンルームマンションに引っ越しました。
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いつかは家に帰るつもりで断行した、1回目の引っ越し
いわゆる「昼逃げ」というやつです。夫にバレないように支度しないといけないので、段ボール箱に荷物を詰めたのもすべて前日でした。必要最小限のものを持って、引っ越しました。このときはハラハラしました。
ただ、ずっと逃げたままになるとは思っていなかったのです。警察や自治体や児相や学校が「別居したほうがいい」といっているのだし、離婚調停も遅々としてではあるけれど進めているし、そのうちに夫は譲歩してくれるだろう、彼が別の場所に引っ越して、子どもたちと自分は戻ることができるだろう、と心のどこかで期待してしまっていました。
だって、あの家は大人ひとりで住むには広すぎるのですから。
一方で子どもには、ある程度の広いスペースが必要です。遊んだり、絵を描いたり、本を読んだり、踊ったり、側転をしたり、逆立ちの練習をしたり。子どもはいろんなことをする生き物です。
だから、子どもたちとその監護者(面倒を見る人、我が家の場合はわたしです)が自宅に住んで、もう別居親(夫)が単身用賃貸に住むほうが、どう考えても合理的だろうと思っていました。実際にそういう話も調停で出ましたが、折り合いがつきませんでした。
自宅に戻りたいなら、こうしろ、ああしろ、という細かな条件が出てきて、ああ、彼にとって「家」は交渉材料なのだろうな、と思いました。そしてその交渉にはゴールがないのです。
妻の心を揺さぶって、期待を持たせ、準備させて、おじゃんにする。落胆させてダメージを与える。そのように他人を右往左往させること自体が、彼にとっては喜びの源泉なのかもしれない、と思いました。「離れていても相手をいまだにコントロールできている」という一種の自己効力感を得られるのかもしれません。
モラハラやDVの加害者の中には、別居後や離婚後もひきつづき相手を困らせる人がいます。被害者にも加害者にも何の得にもならず、ただ手間がかかるだけ、というような嫌がらせであっても、わざわざするのです。
わたしが自宅に戻る期待を捨てないかぎり、夫はそれをネタに「取引」を仕掛けてくるだろう。それは毎回とても疲れるので、もうやめたい。
また、最初の家出の際には幼稚園の年少だった下の子どもも、来年には小学生。体も大きくなってきました。睡眠や勉強のために、子どもたちそれぞれに十分なスペースを用意したい――そう考えて、引っ越しを決めました。
つまり、最初の引っ越しは「家出」そして「緊急避難」でしたが、今回は、「持ち家に戻ることをあきらめる」「このさき数年間は持続可能な、子どもたちが健やかに育つための居場所をつくる」という意味を持っています。
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