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家出にもタイムリミット!?【逃げる技術!第24回】歳を取り過ぎると間に合わない

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暴力は手段で、支配することが目的

DVやハラスメントの本質は――これはパワハラやいじめにも通じますが――「支配」や「所有」です。
自分よりも目下に置き、相手の自尊心を削り、従わせようとする「上下関係」こそがポイント。ですから、殴る蹴る、お金を取り上げる、暴言、叱責、強要、趣味や外出の禁止、友人や親族に会わせない、性暴力などは支配するための「手段」です。うちは殴られてはいないからDVではないわ……などと考えているとDVの構造に目をつむってしまうことになるでしょう。

支配から逃げれば、傷ついた心と体は少しずつですが回復していく、とわたしは信じています。だからこそ、「NO」「やめて」「そういうの、モラハラって言うんだよ」などといっても態度が改善されない相手からは物理的距離をとることが大切なのです。

わたしの場合は、自治体や児童相談所の「なるべく早く父親と子どもを離して」、弁護士や警察などの「相手から知られない場所に逃げたほうがいい」というアドバイスに対して、「えっ! そんなのムリ」「大げさでは?」とそのときは感じましたが、いま考えてみればどれも真っ当な忠告でした。

先日、歴史学者の加藤陽子さんの新聞のインタビュー記事「老いた義祖母や母に向かって『自分で人生を選んでいいんだよ』といってみたところで、もう無理なんですよね。自己決定権の行使には賞味期限がある。義祖母や母は間に合わなかった」という言葉を読み、はっとしました。わたしは運よく自己決定権の行使が間に合いました。

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「間に合わなかった」人にならないために

わたしの離婚調停はまだ続いていて、いつになれば終わるのかはっきりしません。ただ、少しずつよい方向に向かっている手ごたえはあります。
一方で、前段で書いた、息子からDVを受けていた90代の女性は、もしかすると加藤陽子さんのいう「間に合わなかった」一人なのかもしれません。わたしが「その家を出たら?」と何度提案しても、彼女は「でも……」「別にいい」というばかりだったのです。
 
このエッセイの読者には、さまざまな年代の方がいらっしゃると思います。10代、20代はいうまでもなく、30代、40代、50代はもちろんのこと、60代、70代の方でも、気づいたその日から「モラハラアンテナ」をピッと頭の横に立てて相手への反応を変えていけば、やり直せる、とわたしは思います。

自分の意思と自由に動く体、それからすまいがあれば、何歳からでも大丈夫。よくいわれる言葉ですが、わたしたちの残りの人生で、今日がいちばん若い日なのです。

さて次回は、モラハラやDVに気づいたときに、逃げるカギとなるものをまとめたいと思います。

当連載は毎月第1、第3月曜更新です。次回は10月21日(月)公開予定です。

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藤井セイラ

編集者、エッセイスト。2児の母。東京大学文学部卒業後、広告・出版を経てフリーに。子育てに関連する勉強が好きで、気がつけば、保育士、学芸員、幼保英検1級、絵本専門士、小学校英語指導者資格、日本語教師、ファイナンシャルプランナー2級など、さまざまな資格を取得。趣味はマンガとボードゲーム。苦手なものはお寿司。最近、映画館で観たのはプリキュア。

X(ツイッター) @cobta https://twitter.com/cobta

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