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家出にもタイムリミット!?【逃げる技術!第24回】歳を取り過ぎると間に合わない

DVから子連れで逃げた編集者の藤井セイラさんが「安心・安全・HAPPYなDV避難」を描くエッセイ。モラハラって何? どこに相談する? 親にどう話す? お金は? 「離婚だって結婚情報誌みたいに明るく語りたい!」と、体験談&Tipsをつづります。

イラスト/藤井セイラ 監修/太田啓子弁護士(湘南合同法律事務所)

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閉じ込められた箱から出て

この連載を始めて約1年が経ち、最終回まであと3回となりました。いろんな場所で感想やコメントをいただくことがあり、そのおかげでさらに考え、また書き進めることができ、大変感謝しています。

このエッセイで書き残したことはなんだろう? とふりかえってみました。

DVとは何か、モラハラの加害者はどんなメカニズムで物事を考えているのか、また家出や調停に関して気をつけたほうがよいことはなにか、そういったことはかなり詳しく書いてきたと思います。

連載を始めるときに強くお伝えしたいと思ったのは、もしあなたが、精神的/経済的/物理的に閉じこめられて生活しているのなら、そこから逃げだせば、きっといまよりも自由になるし、元気が湧いてくるよ、ということでした。

ただ、実際にやってみると大変なこともたくさんある。せっかくなら、自分が調べて知った知識や経験を、多くの人にシェアしたい。その気持ちを込めた言葉が「逃げる技術」です。

Tips90
DVやモラハラとの決別にも「タイムリミット」はあるのかも。歳をとりすぎると逃げるのも難しくなりそう。残りの人生でいちばん若いのは、今日なのです。

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「子どもから親への暴力」というDVも存在する

いま、DV=家庭内暴力というと、夫から妻へ(または妻から夫へ)が思い浮かぶでしょうが、1980年頃までは子から親へ(主に、思春期の男児から父親へ)を指すことが多かったようです。現代でも、実は子から母親・父親への暴力は存在しています。

わたしの知る事例で、成人した50代の長男が、90歳になる母親をあらゆる家事の担当者として長年こき使い、両親の建てた家に住みながら、父親の死後にはその家を相続し、「家長」となって、母親から家賃や水道光熱費まで取り上げていたというケースがあります。

Tips91
DV、特に長男がふるうものには、まさに家父長制と結びついているものがあります。

最終的に、息子から食べ物すら取り上げられるようになった彼女は、家の中で倒れ、発見が遅れて低体温症となっており、ICUに入院しました。幸い、一命はとりとめましたが、高齢者が数ヶ月間も入院すると、人と話す機会や身体を動かす機会がなくなり、認知症になる、運動器(足腰)がスムーズに動かなくなる、その結果として抑うつ状態におちいる、ということがままあります。彼女はまさにその通りとなりました。

もっと早く、せめてあと10年、15年早く、彼女がひとり暮らしをするなり、子どもの無茶な要求を拒絶するなりできていたら、このような晩年にはならなかったのではないか、彼女が仕事をして貯めたお金で、悠々自適の生活を送れたのではないか、とわたしは悔しく思います。

夫から離れたことによる、子どもとわたしの回復

彼女の悲惨なケースを目撃したことは、わたしが家出を決意するひとつの後押しとなりました。なによりも、「ああ、このような被支配的な生き方は連鎖するのだ」と感じました。「このままではわたしの我慢が、子どもたちの性格や進路にも悪影響をおよぼすだろう」、と思ったのです。

その後、いろいろとあって家を出て1年以上が経ち、わたしにも子どもたちにもよい変化がたくさんありました。

まず、家出して数週間〜数ヶ月の頃には、しつこかった希死念慮が消える、視力が上がる、ぐっすり眠れるようになるなど、わたしの体調面での変化が大きかったです。

1年以上経ったいまでは、子どもたちの変化もはっきりと見てとれます。学校や園の行きしぶりが減る、自主的に絵や工作に集中する時間とダラダラやすむ時間のメリハリがつく、姉妹それぞれの好きなことに打ちこむようになる、テレビ・アニメ・音楽などの禁止令が解けたのでお気に入りのマンガやアーティストが増える、自分の意見をはっきりいえるようになる、よく食べて体格がしっかりするなど、とても元気になりました。

わたしも、時間がたつにつれて精神面でだいぶ自由になれたと思います。もう7〜8年ほど、頭が回らず、ずっとぼんやりした感じがつづいていたのですが、目の前にかかっている「白っぽい霞」が消えました。

家出直後はまだ、やっと会えた友人に対してもうまく会話ができず「あれ、セイラちゃんってそんな性格してたっけ?」といわれたりもしたのですが、最近は短時間ですが読書をしたり、人に会って話したり、書くだけでなく司会など話す仕事などもできるようになりました。ずいぶんと回復したと思います。

Tips92
暴力は人を傷つけます。しかし元凶から離れることで、回復することもできるのです。

反対に、家を出たデメリットは、住まいが狭くなったこと、また経済的に不安定になったことでしょうか。

ただ、夫とともに住んでいた家では、好きな場所に好きなように家具を置くことはできませんでしたし(整理収納アドバイザーさんにきてもらって直した家具の配置なども、すべて後から元に戻されてしまったり)、子どものほしい服を買ってやったりもできませんでした。うちには義母の送ってくる服と、夫が自分の好みで気まぐれに買ってくる服ばかりあったのです。

おそらく見た目は「まともな、不自由ない家庭」でしたが、実質的には衣食住のすべてにおいて制限があったのです。ですから、家を出たデメリットはたいしてなく、後悔はありません。

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藤井セイラ

編集者、エッセイスト。2児の母。東京大学文学部卒業後、広告・出版を経てフリーに。子育てに関連する勉強が好きで、気がつけば、保育士、学芸員、幼保英検1級、絵本専門士、小学校英語指導者資格、日本語教師、ファイナンシャルプランナー2級など、さまざまな資格を取得。趣味はマンガとボードゲーム。苦手なものはお寿司。最近、映画館で観たのはプリキュア。

X(ツイッター) @cobta https://twitter.com/cobta

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