2024.9.16
金縛り!?【逃げる技術!第23回】離婚調停の朝に身体が硬直する話
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高齢の方も多い調停委員の構成
調停では互いの主張はどうしても伝言ゲームのようになりますから、ズレて伝わることや、こぼれ落ちてしまうこともあります。
調停委員は「社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知識を持つ人の中から選ばれます。具体的には,原則として40歳以上70歳未満で、さまざまなバックボーンを持つ方々のようです(裁判所Webサイト参照)、実際にお会いして、みなさんとてもきちんとした、良識ある方に見えます。
それぞれの調停委員によってDVやモラハラに関する認識や知識は違いますし、60代、70代の方であれば結婚観やジェンダー観、金銭感覚や、子どもの教育やしつけへの意識なども当然、若い世代とは異なります。身近に虐待被害者やモラハラ被害者を見たことがあるかどうかでも、申立人や相手方(被申立人)の話の受け止め方は変わるでしょう。
一方、虐待やDVの加害者には悪いことをしたという自覚はほとんどありませんし、自分に都合のよい説明をします。調停委員は、訴訟における裁判官とは異なり、なにか事実認定をするという役割ではなく、あくまで仲裁役です。
調停はジャッジではなく「落としどころ」を探る場
そのため、たとえ診断書や写真などの明白な証拠があり、申立人(わたし)が内心では「暴力を受けた」「ひどいモラハラの日々だった」と感じていても、相手方(夫)が「自分は暴力をふるっていない」と主張する。調停委員は「これらの証拠から暴力があったと認定をします」などという役割を負っているのではないのです。
あくまでも、調停委員は両者の一致点を模索する立場なので、一方の言葉をそのまま他方に伝え、「向こうはこうおっしゃってますが、どうですか?」、時には「歩み寄れる可能性はないですか?」と聞いてくることもあります。このため、私としては、加害者の言い分をそのまま受け止めて説得してこられた、と感じてしまう瞬間もありました。
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調停がつらくなってきたわたしは弁護士に「なんとかしてすぐに離婚できないんですか?」と聞きました。すると弁護士はこう教えてくれました。
「離婚訴訟(裁判)を起こして、家裁が『離婚しなさいよ』と判決を出してくれたら離婚成立になるけれど、訴訟を起こすには、まず調停をして、何度も繰り返して、それが不調和(不成立)に終わらないといけないんですよ」
「えっ。じゃあ調停は何回やれば終わるんですか?」
「何回という決まりはないです。すぐ終わることもあれば、7〜8回と続くこともあります」
「そんな……いきなり裁判はできないんですか? 早く決着をつけてほしいです」
「できません。それにもし裁判で『離婚できない』と判決が出れば、離婚できず、結婚継続になります。時間をおいてからまた離婚訴訟を起こすことはできますが、離婚請求が認められないという結果が出ますと、向こうを喜ばせてしまっていろいろと厄介です。だからそれなりに慎重に起こす必要があります」
いきなり離婚訴訟は起こせません。調停→調停が不成立→訴訟を起こす、というステップを踏みます。
なお、初回の調停では、自分の番を待つあいだに「子どもにとって望ましい話し合いとなるために」というビデオを見る必要があります。誰もいない部屋でイスに腰かけて、エンドレスに流れる20分ほどの映像を見ていると、むなしさが募りました。
画面に映るのは、声を荒げる人も、子どもになにかを強要する人も出てこない世界です。
きれいに整った部屋、広い家、テーブルで向かい合って話をする男女。この家は誰が買ったのでしょうか。誰の名義の不動産なのでしょう。この広く飾り立てられたリビングはいったい誰が片づけて掃除しているのでしょう。
わたしにとっては「そりゃ、こんなふうに話し合いのできる家庭なら離婚しなくてもすむでしょうよ」とためいきの出るような映像でした。もしこんな家庭運営ができていたら、いま、家裁にはきていないでしょう。
モラハラも虐待もない、男女間の権力勾配や、経済格差もない、漂白されたような世界をベースにした啓蒙ビデオなのです。いま、運転免許更新のときに見る交通安全ムービーにはドラレコの事故映像が多数使われています。そのため、かなり迫力や説得力の増したものになっています。家裁のビデオにも、調停に至る一例として、DVや虐待の被害や加害の話が少しくらいリアルに反映されていてもいいのでは、と思いました。
次回は、DVや虐待から決別してよかったこと、子どもの変化について書きたいと思います。
当連載は毎月第1、第3月曜更新です。次回は10月7日(月)公開予定です。
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