2024.9.16
金縛り!?【逃げる技術!第23回】離婚調停の朝に身体が硬直する話
イラスト/藤井セイラ 監修/太田啓子弁護士(湘南合同法律事務所)
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調停委員は双方の話を平等に聞いてくれる
以前はなんとなく、家裁の調停委員というのは、家庭や児童心理のことに詳しい、正義の味方のような人だとイメージしていました。
もつれた紐のようにこんがらがった物事を、快刀乱麻、スパーンと一刀両断に解決してくれるのではないか、そして夫に「子どもを叩いてはいけませんよ」「家族に謝ったらどうですか」などと促してくれるのではないか、と期待してしまっていました。
でも、調停委員はわたしの話も夫の話もきちんと平等に聞いてくれます。そしてその訴えは、場合によっては180度くいちがうわけです。例えば、こちらが「夫が子どもを叩いてついに我慢できないと思って自治体に相談にいきました」と話せば、相手方は「子どもの頭など叩いていません」と主張する。双方の意見を平等に聞くのですから、調停委員が「ご主人はこうおっしゃっていますけど」「先方の提案を受け止めてみてはいかがですか?」などとわたしに勧めるのも、当然といえば当然なのです。
調停委員はあくまでも中立の立場。DVやモラハラを相手方が否定すれば、それをひとしく聞き入れることも。
そのようなラリーを何度も繰り返しているうちに、わたしはだんだんと気分が悪くなってくるようになりました。
話しても話しても、理解されない。思い出したくない嫌な場面や夫のセリフを反芻して、説明しなくてはいけない。自分や子どもがいかに困っているかを言語化しないといけない。
そして調停委員から「はたして本当かな?」というキョトンとした顔で見られることに対して(もちろんそこに悪意はないのですが)、涼しい表情でいなくてはいけない。
ぐったりとしてきます。
家裁は慢性的にキャパシティ不足
調停の2回目以降は、わたしの場合には2〜3ヶ月間隔で行われています。本来は1ヶ月間隔くらいで進めばスムーズなのですが、調停委員2名、申立人と相手方(被申立人)とそれぞれの弁護士のスケジュールを合わせ、さらに家庭裁判所の調停室の空き状況を見て次回の期日を決めるため、家裁のキャパシティ不足でどうしても間が空いてしまうのです。
調停と調停のあいだには、相手方との書面のやりとりが発生します。相手からの書面がくるたびに、比喩でなくわたしは具合が悪くなりました。狙ってなのか偶然なのか、わたしの誕生日や相手の誕生日など、メモリアルの日をめがけて書面が届きます。
そこには「これこれの費用を負担してほしくば、こういうことを許すように(例えば仮にですが、子の医療費を支払う代わりにこうさせろ、といったこと)」などの要求や条件が書いてあるわけで、読むと元気がなくなります。ああ、わたしと子どもは夫にとってあくまでも「コントロールすべき対象」なのだな、ということをつきつけられます。
やがて調停の4回目、5回目となると、朝、身体が硬直してまったく動かなくなって起き上がれない、という事態が起こるようになってしまいました。信じられないかもしれませんが、金縛りのように本当にベッドから出られなくなるのです。子どもに揺さぶられても意識は覚醒しているのですが、起き上がれません。
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金縛りで裁判所にいけなくなる
精神科の主治医に話すと「それはうつ病の症状の一種だよね。『動作停止』というんだけど、それが強く現れているんでしょう」「うーん、まあ、せめて離婚が成立したらもう少しマシになるんじゃないかな」といわれました。
物理的に裁判所へいくことができないので、なんとかLINEで連絡して、弁護士にだけ調停に出てもらって、わたしは欠席させてもらいました。ベッドの中から子どもに頼んで、薬と水を持ってきてもらって飲み、2時間ほどたって効いてくるとやっと起き上がれる、という始末でした。子どもも園や学校を遅刻することになります。とても情けなく、申し訳ない気持ちでした。
調停には毎回、当事者が出なくてはいけないわけではありません。遠隔地に住んでいるとか、子どもの急な発熱などのときには、弁護士に一任したり、電話で参加することが可能な場合も。
わたしはなにも調停という場が悪いとか、調停委員が悪い、ということをいいたいわけではありません。むしろ調停委員の方たちは、よくあんなにストレスのかかる仕事をなさっているな、と頭の下がる思いです。
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