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相談するって難しい【逃げる技術!第3回】合わなかったら「チェンジ!」も大事

こちらが相談にいったのに、まずお礼をいわれた

そんなことを考えながらやや身体をこわばらせて待っていると、にっこりほほえんだ相談員さんが奥から現れました。小柄な女性です。首まわりにジャラジャラしたペンダントを下げています。年の頃はわたしよりすこし上でしょうか、もしかすると十歳くらい上なのかもしれません。健康的でつややかな髪をしていました。

彼女は会釈をして、フロアの隅にある相談ブースに案内してくれました。ブースを区切っているパーティションの表面はもう劣化してボロボロで、張られた布地もすっかり毛羽立っています。きっと元はピンク色をしていたのでしょうが、それもすすけてくすんでいました。それでもそこは、なぜか不思議と安心する空間でした。

4人がけのテーブルを挟んで、相談員さんはわたしの斜め向かいに座りました。まずは自己紹介されて、彼女はこの区の「女性相談員」であり、ソーシャルワーカーであること、そして氏名を告げられました。そして頭を下げて、わたしに対してお礼とねぎらいの言葉をかけてくれたのです。

「お忙しいのに、今日ここに来てくださってどうもありがとうございます」
そしてもう一度、ほほえみかけてくださいました。
「よくいらっしゃいました」
ともいわれました。それはとても意外なことでした。

だって月曜の朝一で電話をかけて、急に時間を取ってもらったというのに。
相手は専門職の方で、お礼をいうべきはこちらのはずなのに。

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15年分の結婚生活の、すっかり忘れていたようなことまで話せた

話はすぐ本題に入りました。まず、昨日、一昨日と我が家に起こった出来事の確認から始まって、やがてこの一ヶ月ほどのこと、そしてここ数年のこと、子どもが生まれてからのこと、さらにさかのぼって結婚した直後からのことなど、わたしの15年分の体験を腑分けするように聞いてくださいました。

特に普段は意識に上ることのない出来事までどんどん口をついて出てきたので、聴くことのトレーニングを積んだ人が相手だと、こんなにも短時間で深いところまで話せるのか、と驚いたのを覚えています。

「ええと……」と思い出しながら、ぽつりぽつり、時間軸も行きつ戻りつしながら話すエピソードのひとつひとつを、相談員さんは「ふんふん」「それで?」「ああ、そうだったんですね」「それはなんとまあ……」といった絶妙な、そしてバリエーション豊富な合いの手を入れながら、そしてそれ以上に、「わたしは今あなたのことをいたわしく思っていますよ」という表情を、過剰にならない程度でその顔に浮かべながら、小さな文字でノートにどんどんと書き取っていってくれました。

なんだかそれだけで、自分の中にずっとたまっていたドロドロした黒いものが、相談員さんの握るシャープペンシルを伝って白い紙の上の文字に化けていくだけで、わたしの結婚生活もほんのすこし浮かばれる気がしました。

Tips 9
もし、うまく話す自信がなかったり、恐怖で声が出なかったりする場合には、メモを書いて渡しましょう。相手とのメールのやりとりなどを見せて相談することもできます。

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藤井セイラ

編集者、エッセイスト。2児の母。東京大学文学部卒業後、広告・出版を経てフリーに。子育てに関連する勉強が好きで、気がつけば、保育士、学芸員、幼保英検1級、絵本専門士、小学校英語指導者資格、日本語教師、ファイナンシャルプランナー2級など、さまざまな資格を取得。趣味はマンガとボードゲーム。苦手なものはお寿司。最近、映画館で観たのはプリキュア。

X(ツイッター) @cobta https://twitter.com/cobta

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