2024.1.27
【中村憲剛×町田瑠唯対談 後編】勝つチームとは日常の基準が高く、やっていない人が浮く組織である
勝ったらチームのおかげ。負けたらPGである自分の責任
中村
町田選手の過去のインタビューで「一番冷静でいつつ、熱くもいたい」という言葉があって、とても共感を覚えました。冷静でいなきゃいけないのは僕たちのようなMF、PGというポジションの性質上、全体を見ていく必要があるから。一点集中型になって視野が狭くなってしまうと、チームがマズい方向性に行く可能性があることも認識していて、自分がしっかりしなきゃいけないという使命感も冷静さにつながっているかな、と。
町田
冷静にプレーするところは当然として、攻撃になるとPGである私の顔をみんなが見て、私の指示や姿勢によって動きます。逆に守備になると攻撃とは逆に自分が一番前になり、みんなの視界に自分の背中が映るので、ディフェンスを激しく頑張ればみんなにも伝わる。だから熱くいかなくては、というところも大事にしています。
中村
口で伝えるというより町田選手は背中で引っ張っていくタイプですね。
町田
はい。言葉で伝えるのは得意ではないです(笑)。プレーを通じて、「みんなついてきてね」と熱い気持ちでプレーすることを心掛けています。
中村
不勉強で恐縮ですけど、他のチームでもPGのみなさんは役割的にチームの先頭に立つことを求められるものなのですか?
町田
それはチームによって違いますし、レッドウェーブでも私が入るのと、他のPGが入るのではバスケット自体が変わってきます。自分自身、大事にしているのは(パスの)呼吸が合わなかったら、自分の責任だな、と。もっと言えば勝てばチームのおかげだけど、負けたらPGである私の責任だと思っています。
中村
責任を担えるだけの度量があるからそう思えるんでしょうね。でもプレッシャーというよりどこか楽しんでその作業をやっていませんか?
町田
はい、楽しいです。
中村
良かった! 正直キツいです……と言われたらどうしようかなと思いました(笑)。僕もそうなんですけど、司令塔として全権を握っている感覚ってやっぱり楽しいんですよ。ピッチ上でチームの11人を動かすのは自分なんだって。
町田
全権というよりは、このコート上では自分がしっかり仕切らなければという感覚です。そのくらいの気持ちでやろうと常々思っていますし、ヘッドコーチが求めていることを理解して、チームに落とし込むのも私の仕事なので。
中村
監督のやりたいことをどれだけ理解して体現できるかで信頼も変わってきます。僕も昔、体が小さかったから、自分が試合に出るためには監督が何を求めているかを凄く大事にしていましたね。
町田
私も同じです。だからこそ、一番責任もある、と。
中村
さきほどプレーで伝えるという話がありました。町田選手のプレーを見ていて思うのは、たとえば、カットインする味方に合わせて斜めにスパンとパスを出すじゃないですか。あのようなスーパープレーも「私がこうしたら、あなたはこうして」みたいなコミュニケーションは事前にあるんですか?
町田
たとえば練習中に「ここのディフェンスの奥が空いたらカットインしてみて」みたいな話はします。でも、プレー中に私が見ている角度と、その選手が見ている角度は違っていたりもするので、伝え方が難しいです。なので、お互いにコミュニケーションを取りながら、すり合わせていく感じですね。ただ、話し合いがなくてもディフェンスを振り切ったら、パスを出してくれるとみんな思っているでしょうし、私もこの空間にパスを出しても大丈夫だなというパターンもあります。一回、成功例ができるとチーム内やその選手との新しい回路がつながっていきます。
中村
町田選手にさえわかってもらえればいいわけですからね。コミュニケーションがなくても、感覚が合えばいいってことか。
町田
もちろん私はチームメイトのクセを把握しています。自分がこっちを向けば、こう動くだろうと頭に入っています。なので、コミュニケーションがなくても、合わせられる部分はあります。日本代表になると、みんなで集まって活動する時間も短いのでクセを掴みにくいところもありますけど、それこそお互いの感覚でピタッと合うこともあります。
中村
今日、いろいろと町田選手と話をさせてもらって繰り返しになりますけど、親近感しかなかったです。自分の心掛けてきたことを含めて、多くのことが重なりました。
町田
憲剛さんとは同じ川崎市をホームタウンにするチーム同士ということもあって、一度じっくりお話をうかがいたいと思っていました。私の思考をここまで具体的に言葉にしていただけてうれしかったですし、感覚や考え方も似ているのかなと思いました。本当にありがとうございました。
中村
富士通レッドウェーブの優勝、期待しています!
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【ケンゴの一筆御礼】
連載のタイトルどおり、まさに「思考のパス交換」だったなと思えた回でもありました。バスケットボールとサッカーという競技の違いはありますが、町田選手のプレーを見ていて、自分と似ているなと直感的に思っていました。全部を見て、情報を集めたうえで、一番いい選択肢をチョイスする。チームメイトからの信頼も伝わってくるし、まさにコート上の監督、司令塔だと言えます。
今回、町田選手が見えているものをご本人から聞いてみて、やっぱりそうかと納得できることばかりでした。約1時間の対談でしたが、本当にあっという間。またぜひお話を聞かせていただければなと思います。体のサイズに関係なくバスケットの世界で彼女が活躍していることは、バスケットボールのトップを目指す子どもたちに大きな勇気を与えているはずです。これからも一人のファンとして富士通レッドウェーブで、日本代表で活躍する町田瑠唯選手を応援していきたいと思います。
この連載は不定期連載です。次回はどんなゲストが登場するか? お楽しみに!
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