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【中村憲剛×廣瀬俊朗対談 後編】サッカー、ラグビー、バスケ…競技の枠を取り払って一緒にやることも大切な時代に 

競技以外から実感。スポーツにできることを未来に

中村 
スポーツからはいろんな発信もできますよね。

廣瀬
僕、マルコメさんで「味噌アンバサダー」をやっているんですが、植物性タンパク質を多く含む発酵食品って日本ならではじゃないですか。“飲む点滴”と呼ばれる甘酒だっていまだにアルコールが入っていると思っている人も少なくないと思うんですよ。「スポーツ」と「食」は相性がいいから、そういったこともどんどん発信していったら理解が深まると思うんですよね。

中村 
マルコメさんはフロンターレのスポンサー! だからコラボもいろいろとやらせていただいています。廣瀬さんやラグビーも加わって、イベントを大きくしていくことも可能ですよね。

廣瀬
これは早速一緒にやれるかも。

中村 
みんなでどんどん新しいことをやろうって本当に思います。今の時代、僕らや下の世代って「スポーツで変えていきたい」、「変えてもちゃんと対応できるよ」っていう発想の人が多い気がします。サッカーだけ良くなればいいということじゃなくて、スポーツ界全体をみんなで地域を、日本を元気にしていく。行動に移したらいろんな人が助けてくれるなっていうのは現役時代に感じたことでもあるので。

廣瀬
変えたいと思っていることは僕もいろいろとあります。

中村 
どんなことですか?

廣瀬
ラグビーって、子どもたちに対して怒ってしまう指導法がなかなか消えない。

中村 
サッカーもその側面はまだあると思います。

廣瀬
それじゃなかなか競技を楽しめないと思うんですよ。これは絶対になくしていかなきゃいけない。
また、観る立場でも、たとえば車イスでスタジアムに行くとなったら、どのルートを使えばいいとか、トイレはどこにあるとか、その目線で考えなくちゃいけない。誰しもがスポーツを楽しめる環境をつくるために、誰ひとり取り残さないためにいろいろとやっていく必要があります。「ONE RUGBY」でブラインドラグビーや車イスラグビーなどの体験ブースが試合会場にあるとか、コンタクトは怖いけどタッチラグビーならやってみたりという人のために場を設けるとか、ラグビーに携わる人、楽しみを増やしていく。そういうことを模索しているし、広げていくことができればいいかな、と。

中村 
スポーツの力って本当にすごいなと思います。川崎フロンターレは2011年の東日本震災で甚大な被害を受けた陸前高田市と今もなおずっと交流が続いているんですけど、そのきっかけは学校の教材が津波によって流されてしまったので、フロンターレが作成していた算数ドリルを支援してもらえないかと相談を受けたことからでした。そして選手会でサッカー教室をしに現地に向かったんですね。最初は現地の方たちの反応が怖かったんです。いま、みなさん大変な思いをされているのに、子どもたちと一緒に僕らがボールを蹴ることはどうなんだろう、と。
でも実際に僕らと触れ合ってボールを蹴ったことを子どもたちがすごく喜んでくれたと後で聞いて、プロサッカー選手が試合以外でやれることって本当にあるんだなって実感を得たんです。

廣瀬
僕たちも、同じく大きな被害を受けた釜石に行きました。一緒にラグビーをやって、ちょっとでも笑顔になってもらえると、スポーツにしかない力ってあるんだなと感じました。これをきっかけにいろんな境遇にある子どもたちに、笑顔になってもらいたいという思いが僕のなかでも膨らんできました。

中村 
(東日本大震災の)募金活動をやらせてもらったときに、募金していただいた方に「お願いします」じゃなく「ありがとうございます」と言われたことがあったんです。それが気になって、「ありがとうって?」と聞いたら、「自分も何かしたかったけど、その手段が分からない。フロンターレがそのきっかけをつくってくれたので、私もここに来れました。だから『ありがとうございます』なんです」と言ってくださったんですね。これもスポーツの力だなと感じましたよ。

廣瀬
いい話ですね。

中村 
だから僕もいろいろとやっていきたい。廣瀬さんには、ラグビー以外のいろんな競技から同じ思いの人を束ねる力があるので、リーダーとして日本スポーツ界を変えてもらいたいです。もちろん僕も参加しますので。

廣瀬
いえ、ぜひ憲剛さんにリーダーシップを取ってもらって、僕はその下でバリバリ働きますから(笑)。

中村 
僕は思ったことズバズバ言っちゃうので難しい(笑)。やっぱり廣瀬さんのような人が信頼を集めて、物事を動かせていけるんじゃないかな、と。でも、同じ志を持つ方が近くにいるというのはうれしいし、頼もしい。将来的にもし廣瀬さんがラグビー界で、僕がサッカー界で少しでもそういう立場になったら、そこでも協力できればいいですよね。

廣瀬
それは僕も同じです。一緒にスポーツ界を変えていければいいですね。

中村 
はい、変えていきましょう!

【ケンゴの一筆御礼】

廣瀬俊朗さんとは、昨年スポーツ雑誌で初めてリモート対談させていただいて、また機会があればいろいろと話ができればいいなと思っていました。年はひとつ僕のほうが上なんですけど、話を聞いていると何だか自然と背筋が伸びちゃうんですよね(笑)。あまりにしっかりされているから、生粋のリーダーってこういう人なんだろうなと思ってしまいます。いろんな活動をされ、大学院でキャプテンについて研究され、心からリスペクトできる人。僕もこれからいろいろとやっていかなきゃいけないなと感じました。競技の枠を超えて一緒にやっていけたらいいですよね。そんな日が早くやって来ることを願っています。

次回は12月11日(土)配信予定。3人目のゲストは、ロンドン五輪800メートル代表の元オリンピアンで、現在は陸上コーチとして活躍されている横田真人さんです。お楽しみに!
(取材時は感染対策を徹底し、撮影時のみマスクを外しています)

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新刊紹介

中村憲剛

なかむら・けんご●1980年10月31日生まれ、東京都出身。中央大学卒。
2003年、川崎フロンターレに入団。20年の引退まで同チーム一筋のレジェンド。Jリーグベストイレブン8回。16年にはMVPも受賞。日本代表国際Aマッチ68試合出場6得点。10年南アフリカW杯、出場。最新刊『ラストパス』は現在4刷で話題。
公式ブログ■中村憲剛オフィシャルブログ
公式X@kengo19801031
公式インスタグラムkengo19801031

廣瀬俊朗

ひろせ・としあき●1981年10月17日生まれ、大阪府出身。北野高校、慶應義塾大学理工学部卒。2004年、東芝ブレイブルーパス入団。高校日本代表や日本代表などすべてのチームで主将を務める。15年、ラグビーW杯イングランド大会メンバー。16年、引退。
19年、東芝を退社し、(株)HiRAKU 設立。現在は慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科でキャプテンシーの研究に取り組むほか、スポーツの普及、教育、食、健康に重点をおいた様々なプロジェクトを進めている。
著書に『なんのために勝つのか。ラグビー日本代表を結束させたリーダーシップ論』(東洋館出版社)などがある。
公式ツイッター@toshiaki1017

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