2021.9.11
【中村憲剛×鈴木桂治対談 前編】僕たちは若い選手や後輩にどんな言葉を与えていくべきなのか?
“「大丈夫です」のその先”を聞いてあげるべきなのか
中村
原沢選手に対しては、どんな声掛けを?
鈴木
彼の場合は、「何かあったら言ってくれよ」と伝えていても「大丈夫です」が多くて。
中村
あまり言葉が多くないタイプなんですね。
鈴木 そう。一緒にいればもちろんお互いに喋るんですけど、もしかしたら本当に彼が考えていることを引き出せていなかったんじゃないかなって思いもあって。
中村
でもそこって難しい。サッカーの場合、踏み込みすぎても良くないっていう選手もいるから。でも桂治くんが言うように“「大丈夫です」のその先”を聞いてあげれば良かったという思いも何となく理解できる。でもそのときは正しい距離感だと思わざるを得ないというか。もし心の中に入っていくことで、試合に影響してしまってはいけないって指導者なら考えるはずですからね。
鈴木
ただ担当コーチとしては反省するポイントだったなって感じています。
中村
正しい距離感というのも、要は結果次第みたいなところもある。心の中に入っていって勝ったら「正しかった」ってなるわけだから。指導って本当に難しい。自分でやったほうがラクって思うことがあるので。そこで動かずに止まっておけばいいのに、どうしてボールに寄っていってつぶされちゃうかなとか。どう言えば、それがうまく伝わるのかなって、考えさせられる。桂治くんもそういうことってありました?
鈴木
それはもう。自分でやったほうがそれはラクですよ(笑)。
中村
母校の国士舘大学では柔道部総監督も務められています。学生をどのように束ねているかも聞きたい。
鈴木
大学の場合は(部員の)目的がそれぞれ違う。みんなが日本一を目指しているわけじゃなくて、教員になりたいとか、公務員になりたいとか、ベクトルが違う。だからそれぞれに違う声の掛け方をしていますよ。公務員になりたかったら「もう勉強していいぞ」とか、消防士の就職を希望しているなら「消防士の試験は難しいから頑張りなさい」とか。もちろん柔道を頑張りたいと思っている子には、強くなるための声掛けをやっています。
中村
部員は今何人くらい?
鈴木
104人。もちろん全員の名前を覚えていますよ。声を掛けていくのも全員。(実力が)上の子よりも、むしろ下の子に対してどう接していくかが大事。根が腐ってしまったら、全部腐るじゃないですか。根をいかに大事にするか、僕はそこを意識していますね。
中村
そこはサッカーも一緒。監督もコーチも、やっぱり組織全体を見なきゃいけない。観察眼が問われるなって思う。
鈴木
サッカーはチームスポーツ。どこか(マネジメントに)ミスがあったらチーム全体の失敗につながってしまう。監督はいろいろと難しいんじゃないかと思うんだけど?
中村
Jリーグだと大体30人くらいメンバーがいるなかで、試合に出るのは11人。出ない選手のほうがよっぽど多い。一人ひとりに寄り過ぎても「結局使ってくれないじゃん」ってなることもあるから難しい。僕も使ってもらえないときは、「クッソー」って内心思ったことあったから。いい監督というのはそのあたりのマネジメントがうまいと思う。グループに対しても、一人ひとりに対しても、さじ加減一つでいい方向に持っていくので。サブの選手たちの気持ちをいかに上げさせられるかが大事で、そういうチームは強い。試合に出ている選手は、勝手にモチベーションは上がるから。
鈴木
柔道とサッカーではまったく違う競技だけど、そういうマネジメントの部分は共通点も少なくないのかもしれない。
(後編に続く)
後編は9/18(土)午前9時配信予定です。お楽しみに!
(取材時は感染対策を徹底し、撮影時のみマスクを外しています)