2021.9.11
【中村憲剛×鈴木桂治対談 前編】僕たちは若い選手や後輩にどんな言葉を与えていくべきなのか?
(取材・構成/二宮寿朗 撮影/熊谷 貫)
全員金メダルを獲るという目標は達成できなかった
中村
まずは東京五輪、お疲れさまでした。柔道はたくさんのメダルを獲得しましたよね。
鈴木
いい結果ではありましたけど、もうちょっとやれた選手もいたなっていう思いがあって。前回のリオ(五輪)は全員がメダルを獲得できた。でも今回は全7階級のうち5人が金メダルで、2人がメダルなし。全員金メダルを獲るという目標があって、実際そのチャンスもあった。100kg級、100kg超級を任されている担当コーチとしては、原沢(久喜)がメダルに届かなかったので、これはすごく悔しかった。どうして獲れなかったんだって、いろんなことを考えさせられましたよ。
中村
桂治くんのその感想を聞くだけで、日本柔道界の意識、基準の高さっていうのが伝わってくる。でもあれだけのメダルはすごいこと。井上(康生)さんが監督で、桂治くんがコーチだから、実績のある指導者の言葉というのは(選手たちに)メチャクチャ説得力があると思う。それに桂治くんはフランクな性格。厳しくとも選手に寄り添って接していたと思うんですよ。だから選手も自信を持って試合に臨んでいたんじゃないかな、と。それにテレビを観ていても、選手、スタッフ含めて一体感みたいなものがあった。そうじゃなかったらあんなにメダルは獲れない。僕も引退して半年以上経ったけど、指導するときのアドバイスとか声を掛けるタイミングって気を遣うなって感じていて、実際どんな声掛けをしていたのか聞いてみたいな、と。
鈴木
井上監督はそれがすごくうまいなって思う。普段の練習、合宿では担当コーチが選手のそばにずっと一緒にいて、試合の直前になって監督が選手のところにすっと寄ってきて一言二言、声を掛けるだけで選手の気持ちが“爆上がり”する。モチベーションをもう一つ上に持っていくのが井上監督でしたね。
中村
サッカーでも監督にしかできないこと、コーチにしかできないことってある。そこがごっちゃになるとよくないと思っていて。フロンターレで言えば、鬼さん(鬼木達監督)は、コーチがやることを信じているし、ある程度の部分はコーチに任せてもいて、その隙間で井上さんのように選手に話をしている。でもそれって、全体をしっかりと把握しておかないと難しいこと。監督が首を突っ込み過ぎずに我慢することも大事なんだなって、鬼さんを見ていてすごく感じたことかな。
鈴木
言いたくても我慢する。その気持ちよくわかる。
中村
桂治コーチとしてはたとえばどんな言葉を? (100㎏級の)ウルフ・アロン選手は見事に金メダルを獲りましたが。