よみタイ

スマホ記事とおばちゃんレッテル

 図々しい態度だとか、周囲の状況を顧みない大きな声だとか、迷惑がかかるような行動は別問題だが、おばさんは堂々とおばさんでいいのである。どんなにがんばってアメをフリスクに替えてバッグに入れたとしても、若返るわけではない。私はおばさんよりも、早くおばあさんになりたかったので、加齢によるおばさん化にも抵抗せずに、少しでも早くおばさん年代を通過したいと考えている。どうしてもこういった記事が気になって、何から何までおばさんになりたくない人には、
「どうぞ、世の中や人目を気にしてお過ごしください」
 としかいいようがない。おばさんにならないためのヘアスタイル、コーディネート、持ち物、しぐさなどを書きつらねたあげく、なぜおばさん化するとだめかというと、
「それだと男性にもてない」
 が結論だった。ご丁寧に記事中には、中年女性にがっかりしている若い男性の意見まで掲載されていた。
 こんな企画を出した人たちは、世の中のおじさん、おばさんたちが、どれだけ恋愛をしているのかを知らないらしい。私はこの件については当事者ではないが、若い人よりも中高年のほうが積極的で、「薄毛と三段腹」、「加齢臭とたるみ」が恋人関係にあったりする。このほうが人類愛が感じられ、人の姿として美しいではないか。毛量がたっぷりある男性と、巻髪でフリスクを持っている女性ばかりが、恋愛するわけではない。
 体型、性格を含めて、相手が欠点だと思っているところをで、内面で修正するべきところがあれば、お互いに話し合って、よりよい方向に持っていくのが、愛情ではないかと思うのだが、いくつになっても、外見のことばかりでは呆れてしまう。結局、企画側の人間が、そのような価値観でしかないか、そういう事柄しか頭に浮かばない、想像力が足りない人たちなのだ。
「人としての愛情がわかりもしないくせに、外見のことばかり書くんじゃない」
 と私としては腹が立つばかりだが、一方で、このような脅しともいえる記事を見て、
「まったく、そのとおりだわ」
 と納得して、バッグの中からアメを取りだしてフリスクに替え、補整下着に下腹の肉を押し込み、女性らしい服装をして、辛い思いをしながら、ハイヒールを履くのも、その人の自由である。
 だいたい、記事を発信している側も、責任なんかないから、おばさんになろうがなるまいが、どうでもいいと思っているに違いない。とにかく読ませるのが第一で、そうすればもうかるしくみになっているのだろうから、私がたまたま読んでしまったことも、彼らにとってプラスになったのかと思うと、アプリを削除した今でも、思い出しては腹が立ってくるのである。

次回は8月24日(水)公開予定です。お楽しみに!

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『今日はいい天気ですね。れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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