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猫沢エミ「猫沢家の一族」
料理レシピエッセイ『ねこしき 哀しくてもおなかは空くし、明日はちゃんとやってくる。』、愛猫との日々を描く『猫と生きる。』がロングセラーとなっている猫沢エミさん。
2022年2月14日、コロナウイルスの終息が見えないなか、2匹の猫と共に再びフランスの地を踏み締めた。16年ぶり、二度目の移住のために。
遠く離れたからこそ見える日本、故郷の福島、そしていわゆる「普通」と一線を画していた家族の面々……。フランスと日本を結んで描くエッセイです。

そっくりすぎる二人でも、相手にあって父になかった決定的なもの 第4回 サン=テグジュペリと父、星の王子さまとハゲの王子さまの邂逅(かいこう)

第4回 サン=テグジュペリと父、星の王子さまとハゲの王子さまの邂逅

お顔が立っていらっしゃるから

 まず、タイトルからして失礼なこの回を始めるにあたって、みなさまにお断りしておきたいことがある。私は、フランスの偉大な作家、飛行機操縦士であるアントワーヌ・ドゥ・サン=テグジュペリと、彼の名著『星の王子さま』を心から敬愛している、ということをくれぐれも、だ。せんえつながら主宰している自身のフランス語教室、通称・にゃんフラ(というふざけた名前だが、がっつりシリアスな内容)では、『星の王子さま』の文法強化リライト版の全文翻訳朗読に生徒とチャレンジ中だ。すべてではないにせよ、彼に関する文献を多く読み、展覧会にはなるべく足を運び、過去にはサン=テグジュペリの墜落機が発見された南仏マルセイユの沖合と、そのすぐ横に浮かぶリウ島を見るため観光船に乗ったこともある。パイロットとしてのサン=テグジュペリが、基地のあるトゥールーズで定宿にしていたホテルの一室も熱い想いで取材した。敬愛者というよりは、もはや民間の研究者と言えるかもしれないこの私が、なぜここまで「星の王子さま」とのご縁があったのか。それはズバリ、サン=テグジュペリが父にクリソツだからだ。あゝ……なんという残念な理由だろうか! 父は日本人だが、顔が完全にイタリアマフィア系だった(カルロス・ゴーン被告系とも言えるのか?)。父は言うに及ばず、猫沢家の特に父方は粒ぞろいの濃い顔で、昔から日本人と思われることはまれだった。そのまつえいである私とふたりの弟たちも当然、おおよそ日本人に見られたことはない。

 私が大学生だった頃、実家への帰省時に歳の離れた弟たちを連れて地元の駅前のラーメン屋に入ったことがある。すると、店主に「旅芸人の一座の方々ですか?」と言われた。旅芸人て……と内心バカうけしながらも「違います。もとまちにある着物屋の三姉弟です」と真面目に答えると「あらやだごめんなさいね! いやあ〜みなさん、お顔が立ってらっしゃるもんだから」と店主は照れ笑いした。そうなんです。いやでも顔が立っちゃうんです。現在パリ暮らしの私なぞ、コスモポリタンな街ということもあって、余計に日本人には見られない。よく言われるのは「ゴーギャンの絵の女(タヒチ人)」や「ベトナムとアラブが混じったフランス人」など。以上の経緯から、父がサン=テグジュペリに瓜二つであることと、その父に私もよく似ていることがなんとなくご想像いただけるだろうか。

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猫沢エミ

ミュージシャン、文筆家。2002年に渡仏、07年までパリに住んだのち帰国。07年より10年間、フランス文化に特化したフリーペーパー≪BONZOUR JAPON≫の編集長を務める。超実践型フランス語教室≪にゃんフラ≫主宰。著書に料理レシピエッセイ『ねこしき 哀しくてもおなかは空くし、明日はちゃんとやってくる。』『猫と生きる。』など。
2022年2月に2匹の猫とともにふたたび渡仏、パリに居を構える。

Instagram:@necozawaemi

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