よみタイ

スマホ記事とおばちゃんレッテル

 そんなだらだらと流されるスマホの記事を眺めては、
「ああ、うるさい、うるさい、お前たちは本当にうるさい!」
 と怒りがこみ上げてきた。これは私の場合だが、おばさんといわれるのがいやなのではなく、妙な定義づけをしてくることにうんざりするのだ。私が若かった何十年も前から、何も変わっていない。私も若い頃に、おばさんに対して好意は持っていなかったが、それは彼女たちの振る舞いや、身だしなみの放棄に近い様子が見苦しかったからである。時代は流れ、編集する人の世代は替わり若くなっているはずなのに、昔と同じことを繰り返している。
 そういう記事のひとつに「アメをバッグに入れて、たくさん持ち歩いているのがおばさん」とあって、
「アメを持っていて何が悪い!」
 とむっとした。私は大量にではないが、いつもバッグにいくつか入れている。おばさんの体には脂肪がたっぷりついているのに、なぜか体の内外は乾燥するのだから仕方がないではないか。皮膚には油分を塗り、喉に潤いを与えるためにアメをめる。
「どこに問題が?」
 といいたくなる。おまけにおばさんにならない、アメを持たない対処法が、
「フリスクに替えましょう」
 というのでは、ばかばかしすぎて、
「はあ?」
 としかいいようがない。アメとフリスクでは、フリスクのほうがお洒落しゃれだからだそうだ。アメとフリスクは根本的に用途が違うのがわからないらしい。
 たしかに若い頃に大阪に行ったとき、見知らぬおばちゃんから、
「おねえちゃん、アメちゃんあげよか」
 と何度かアメをもらったことがあった。それはとてもうれしかったし、それによっておばちゃんに対して不愉快な思いをしたこともなかった。うれしさのほうがずっとまさっていたのだ。
 どうでもいい形ばかりの話を書く、薄っぺらいライターにうんざりしてしまった。しかしもしかしたらライターも、こんな記事を書きたくもないのに、生活のために書かなくてはならないのかもしれないなあと思った。インターネット記事のライター情報はまったく知らないので、私が見聞きした限りでしかないのだが、ある有名人の悪口を書いてくれなど、人の足を引っ張る記事を依頼されることもあるらしい。

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新刊紹介

群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『今日はいい天気ですね。れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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