2022.5.25
鏡の中の老女とおばあさん問題
文字を読むのも編み物も縫い物も、そっくり返ってはできず、この歳になっても私がしているのは前屈みになる作業ばかりだ。老いを感じる己の姿を目の当たりにした衝撃は大きく、日常的に背中が丸くならないように気をつけるようになってからは、「く」の字状態は避けられている。しかし気を抜いているときには、ばばくさい姿だろう。外出するときはそれなりに緊張もしているが、家の中でずっと気を張っているわけにはいかないし、だらーっと脱力したいときもある。そのときはどんなばばくさい状態になっても、仕方がないと諦めることにした。
これからの自分のおばあさん問題について考えると、やはり姿勢には気をつけたい。イラストレーターのフランス人女性、イザベル・ボワノさんが描いた日本滞在記『おとしより パリジェンヌが旅した懐かしい日本』という本には、日本の高齢者がたくさん登場して、彼女はその丸くなった背中が愛らしいといってくれている。私も彼らを見て愛おしく感じるけれど、自分がそうなるのはどうかといわれると、なるべく避けたいのだ。
昭和三十年代には、町内に体が直角に曲がっているおばあさんが何人もいたけれど、栄養状態や生活スタイルが影響したのか、最近ではほとんど見かけなくなった。姿勢が悪いと内臓を圧迫して呼吸にも影響し、体にもよくないらしいので、座業の私は気をつける必要があるなと、「く」の字の自分を見て深く反省したわけである。
編み物をしているときの前屈みは、重心を前のほうではなく、意識して背中のほうに、つまり椅子の背もたれに寄りかかれば、少しは改善されるのではないかと、気をつけてベストを編んでいった。身頃の編み地はメリヤス編みだけで、編み方に気をつける必要がないのはありがたい。複雑な模様があったりすると、模様編みを覚えるまでは、いちいち編み図を確認するので、つい前屈みになってしまう。作業をしているときは、十五分に一度は背伸びをしたり、胸を張ったりと、簡単な体操も途中にはさむようにして、「く」の字になるのを避ける努力は続けている。