よみタイ

群ようこ「今日は、これをしました」

三十数年ぶりに新聞をとる

 幸い私は、今のところ新聞広告に載っているような、シニア向きの用品のお世話になるような状態ではないので、それらにはただうなずきながら、ざっと目を通すだけなのだが、寒い日にひとつの広告に目が留まった。それは私が子供の頃から知っているメーカーのものだった。失礼ながら、世の中の会社の経営が厳しいと聞くなか、まだこの会社があったのかと、懐かしくなった。母の鏡台にはいつもそこのハンドクリームが置かれていた。冬になると白い陶器の容器に入った、ピンク色のクリームを塗るのが楽しかったのだが、手に塗るとべたべたして、折り紙をすると指の跡がついてしまうので、困ったのを覚えている。
 そこに同じメーカーが作っている薬湯の広告があった。私はハンドクリームしか知らなかったので、興味を持って見た。タール系色素、合成香料は使われていないと表示してあったので、これはいいかもと思い、会社のサイトを見てみた。
 その会社は、最初は明治に髪油を扱う店として起こり、戦後、この会社がはじめて、ハンドクリームという名称をつけたとあった。今は外国製も含めて、たくさんのハンドクリームが売られている。最近はアルコール消毒をするために、手荒れを起こしている人がとても多くなったらしい。このハンドクリームの成分は基本的にはワセリンなのだろうけれども、ずっと愛用している人がいるのがうれしい。
 オンラインショップもあり、ハンドクリームにも興味はあったのだが、いただきものや買ったもので未開封のものがいくつかあるので、今回は購入を見送り、そのかわりに薬湯を買ってみた。ヒバ、ハッカ、しょうが、シルクの四種類が二包ずつ入っている、各種類がお試しできるもの一箱と、香りが好きなので間違いないであろう、ハッカの現品を注文してみた。
お試しの四種類のどれも、問題なく気分よく使った。香りも強烈ではないので、ほんのりした雰囲気でとてもいい。現品は750グラム入りなので、なかなかなくならないが、使い終わったらまた注文しようと思っている。この薬湯も、新聞の広告を見なければ出会うことがなかったのは間違いない。
 再び新聞をとりはじめて、不都合なことってあったかなあと考えてみたら、朝と晩にマンションの一階の集合ポストにとりにいくのが面倒なくらいだ。それよりも新しい情報を得られる楽しみのほうが多くなった。読み終わった後は、回収日に出しておくと、重量に応じてトイレットペーパーがもらえたりする。また生ゴミを入れて捨てるための、ゴミ袋を折ることもできて役に立つ。不要な本や品物を段ボールに入れて、バザーに出すときにも、隙間を埋める緩衝材になるし、昔は新聞紙でガラス窓を拭くときれいになるという掃除法もあった。読んだ後にも便利に使っている。今回の契約が切れても、また更新するつもりだし、これからも新聞はとり続けるだろう。高齢者の家のポストに新聞がたまっているのを見て、アクシデントが発覚したといった話も聞くし、新聞はなかなかよいものだと私はうなずいたのだった。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『おたがいさま れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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