2025.12.22
女性の孤独死は「かわいそう」なのか【第8回】独身男女の死の扱われ方
一方で、孤独死、孤食、ぼっちなど、「一人」に対して、否定的なイメージがつきまとうことも否めません。
家族関係も多様となり、ネットやオンラインで会わずにつながる関係性も行きわたった昨今、一人=孤独というわけではないにもかかわらず…。
隣に誰かがいても、たとえ大人数に囲まれていても、孤独は忍び寄ってくるもの。
『負け犬の遠吠え』『家族終了』『男尊女子』『消費される階級』など、数多くの著書で時代を掘り下げ続ける酒井順子さんが、「現代人の孤独」を考察します。
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葬儀はもっと、シンプルでいい

新型コロナウイルスのパンデミック騒動が落ち着いた後も、生活の中に残り続けたコロナの影響は、少なくありません。コロナがもたらした変化は、様々な面で、
「これでよかったんだ!」
と、人々に気づかせたのです。
たとえば、リモート会議や在宅勤務。とにかく人が集まってはならないということで、オンラインを駆使して業務が遂行されるようになった時、
「会社に行かなくても大丈夫なのでは?」
と多くの人が思ったものです。
それまでは日々、修行だと思って地獄のような満員電車で通勤していたけれど、オンライン上でも仕事は結構できるではないの。……となった。
コロナの5類移行後も、リモート会議は当たり前に行われ続けています。在宅勤務にしても、毎日ではないにせよ認められるようになった会社も多いもの。
葬儀関連の事象も、コロナによって大きく変わりました。コロナ時代は、葬儀も小規模となり、家族だけで故人を見送る家族葬が主流となったのです。
するとやはり多くの人が、
「あれ、これでいいんじゃないの?」
と思うことに。お通夜、告別式の二日間にわたって大勢の人が弔問に来て、お花だお香典だお返しだと様々なものをやりとりし、葬儀屋さんには莫大なお金を支払い、遺族は故人をゆっくり悼むこともできず葬儀というイベントを取り仕切ることに疲れ果てる。……という従来型の葬儀は、あまりに大変すぎました。「葬儀はもっと、シンプルでいい」と人々はコロナ時代に思ったのであり、5類に移行してからも、家族葬が行われることが多くなったのです。
会社には毎日行かなくてはならない、とか。葬儀には尋常でない手間とお金がかかる、とか。その手の「そういうことになっているので、仕方がない」と人々が思っていたことをひっくり返したのが、コロナでした。人の力ではいつまでも変えられなかったであろう常識を、いとも簡単に変えたのは、ウイルスだったのです。
五十代になった頃から、急に死が身近に
コロナは、死について考える機会を人々に与えることにもなりました。未知なるウイルスは人々に死の恐怖をもたらし、特に志村けんさんなど有名人の死が報じられると、その恐怖はいや増すことに。
「正しく恐れよう」
などと言われても、何が正しいのかもわからない状態では、感染を死に結びつけて考えてしまうのは仕方のないことでした。
コロナが流行しだした頃に、五十代半ばになっていた私。六十代以上の人や持病のある人は注意が必要、と言われていましたが、「私も気をつけなくてはいけないお年頃にさしかかっているのだなぁ」と思ったものです。
そもそも五十代になった頃から、急に死が身近になった気がしていました。人生百年時代だ何だと言っても、それは百年生きる人もいる、ということであり、そうでない人もたくさんいる。老いの声はとっくに聞こえていたけれど、死の声もまた遠くから聞こえてきた気がする、と。
昭和初期の日本人の平均寿命は、五十歳前後でした。乳幼児の死亡率が高かったせいで平均寿命も短かったのですが、とはいえ今のように、九十代の人があちこちにいるような状態ではない。
たとえば、明治から大正にかけて活躍した夏目漱石は四十九歳で他界しており、森鷗外は六十歳で没しています。今の感覚で言えば早死にですが、我々のイメージの中で両作家は、功成り名を遂げた文豪のおじいさんであり、早逝のイメージは無い。
森鷗外の五十四歳時の写真を見ると、今の感覚で言うと七十代ほどに見えるものです。おそらく鷗外も、今の七十代くらいの、老成した感覚で晩年を生きていたのではないか。
鷗外のみならず、戦前の日本人の写真を見ると、五十代は立派なおばあさん/おじいさんなのでした。今のように様々な老化防止策がなかったから、という理由もありましょうが、「そろそろ人生もおしまい」という感覚で生きることによって、外見もまた老成していったようにも思います。
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