2022.12.14
新作『すずめの戸締まり』まで連なる、新海誠作品における「孤児」たちの系譜――なぜ、誰かを「ケアする」人物を描くのか
新海誠はなぜ「孤独」を描くのか
この映画のキャッチコピーは「“愛”よりも昔、“孤悲”のものがたり」というものだ。「恋」ではなく、『万葉集』に用例が見られる「孤悲」をあえて使っている。確かに恋には両義性がある。恋が叶えば天にも昇る心地になるが、叶わなければ身を焦がすような苦痛を味わう。思いが届いたときの幸福感はもちろん、相手の気持ちがわからないときの焦燥感や、相手の気持ちが自分に向いていないことがわかったときの絶望感もまた恋の一部をなす。
恋にポジティブな側面とネガティブな側面があるとして、「孤悲」は明らかに後者に重きを置いた表現と言える。それが新海誠の持ち味なのである。『言の葉の庭』に限らず、新海作品には思いが届かず孤独に悲しむ登場人物、すなわち「孤悲」する登場人物が頻出する。
新海誠は人間の孤独に強く惹かれている作家なのだと思う。だから、手をかえ品をかえ、繰り返し「孤児」の物語を描こうとするのだろう。孤児ゆえに早熟を余儀なくされる彼/彼女らは、一見すると自立/自律しているように見えるが、じっさいには脆く儚く寂しい内面を抱えている。誰かをケアしながらも、誰よりもケアされることを欲している。
大ヒットを続けている最近の新海作品は、逆説的に現代人の孤独な心のありようを浮かびあがらせているのかもしれない。
【図版クレジット】
【図1】『君の名は。』新海誠監督 2016年(DVD、東宝、2017年)
【図2】『秒速5センチメートル』新海誠監督 2007年(DVD、コミックス・ウェーブ・フィルム、2007年)
【図3】『星を追う子ども』新海誠監督 2011年(DVD、メディアファクトリー、2011年)
【図4、5】『言の葉の庭』新海誠監督 2013年(DVD、東宝、2013年)
記事が続きます