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内閣の「孤独・孤立対策」は若年性孤独者たちに届くか 第9回 現代の隠遁者たちの見えない本音

 しかし科学技術の進歩によって様々な便利な道具が登場し、また個人主義が日本にもじわじわと浸透していくことによって、人は次第に、まとまって住むことを厭うようになっていきます。日本で「核家族」(夫婦だけ、親と未婚の子だけ等の家族)という言葉が流行したのは一九六〇年代以降でしたが、その頃になると、結婚後に親と住む選択をしない人々が増えるように。
 核家族が当たり前になって、三世代同居等の大家族が特殊な事例となると「核家族」という言葉の存在感は薄まります。そして今度は、核家族も作らずに、単身で生きる人がどんどん増加する世となったのでした。
 今の日本で単身世帯の割合は、その他の人数の世帯の割合を抑え、最も高くなっています。高齢化が進む日本では、高齢者の単身世帯の割合がさらに増えることが予測されているのです。
 子供は独立し、配偶者とは死別や離別をした高齢者の単身世帯の他に、結婚を経験していない単身者も、増えることでしょう。「8050問題」という言葉が流行りましたが、八十代の親が他界すれば、ひきこもっている五十代の子供は一人になり、そして着々と老いていくことに。もちろんひきこもりでなくても、ただ単に結婚をせずにいる人も、増えています。
 現在は、ポリティカル・コレクトネス的な視点から、他人に対して、
「結婚した方がいいんじゃないの?」
 と勧めたり、
「早く子供を産んだ方がいいよ」
 とプレッシャーをかけたりすることはできません。これは独身者問題に限ったことではありませんが、他人の孤独に対して同情したり、孤独解消のために手を差し伸べたりする行為は全て余計なお節介、と言うよりは孤独当事者を傷つける罪となったのであり、親であろうとその手の発言は許されない時代となりました。
 三十代だった頃、結婚しないでいることに「負け」感を抱いたからこそ、私は『負け犬の遠吠え』(二〇〇三年刊)という本を書いたのですが、今はもう、結婚をしていないからといって負け感を抱く必要はなくなったようです。結婚するもしないも、個人の自由。プレッシャーも焦りも感じなくていいのだ、と。

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酒井順子

さかい・じゅんこ
1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』など多数。

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