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勉強しかできない……劣等感を抱えた女性が開いた「快楽への扉」

欲望をさらけ出して得た快感

 ある日、梨花さんはいつもの劣等感からくる「性欲」に突き動かされ、以前から知っていた女性用風俗の利用をふと思い立った。経験だけは豊富な梨花さんにとって女風の利用は、性のプレジャーの一つになるかも、という位置づけで気軽な気持ちからだった。
 だからセラピストに対して特にこだわりもなく、すぐに会えてなるべく背が高い人なら誰でも良かった。仕事帰りにセラピストと新宿のTOHOシネマズの前で待ち合わせして、ラブホテルに入った。
 しかし、それから自分の身に起こったことは、言葉では形容しがたい体験だった。

「テクニックも施術の流れもすごく良かったんです。タイマーがピピピと鳴るまで、時間いっぱいずっと気持ちよさが続いた。今までのセックスでそんなことはなかったので驚きました。
一度男女が性的な関係になると、そのパワーバランスを変えるのはめちゃくちゃ難しいじゃないですか。だけど女風はお金を払ってお客として男性と接するからこそ、自分の欲望を素直に出していいと思えたし、望むような快感が得られたんだと思います」

写真:photoAC
写真:photoAC

 セラピストは、これまで関係を持った男性たちとは全てが180度違っていた。丁寧なカウンセリングに始まり、全身の揉みほぐし、そして性感のテクニック、セラピストはそれらを駆使して梨花さんをこれまでにない快楽の世界に導いてくれた。それは、まさに「夢見心地」だった。
 何よりも感動したのは、セラピストが梨花さんの欲望に真剣に寄り添おうとしてくれたことだ。
 今も忘れられないことがある。
 それは、セラピストに「もっと協力して」って言われたこと。それまで梨花さんは、セックスにおける「協力」とは、男性を射精へと導くために自分が性的な奉仕をすることだと思い込んでいた。しかし、セラピストが伝えたかった言葉の真意は、梨花さん自身がもっと気持ちよくなれるように協力して欲しいという意味だったのだ。梨花さんは、その瞬間を反芻するかのようにゆっくりと言葉を続けた。

「今まではセックスでも相手の都合に合わせないと、愛してもらえないと思い込んでいた。だけど男性にそんなに媚びなくてもいいって思えるようになったのは、自分の自信に繋がったんです」

 梨花さんの中で何かが劇的に変わっていった。女性の快楽に耳を澄ませてくれる相手に初めて出会えたこと。セラピストとの時間は、それまで仕事も性(セックス)も、人一倍、懸命に「頑張り続けて」きた梨花さんが初めて自分と向き合い、慈しむことができた体験だったのではないだろうか。

(後編に続く)

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菅野久美子

かんの・くみこ
ノンフィクション作家。1982年生まれ。
著書に『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『ルポ 女性用風俗』(ちくま新書)などがある。また社会問題や女性の性、生きづらさに関する記事を各種web媒体で多数執筆している。

Twitter @ujimushipro

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