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勉強しかできない……劣等感を抱えた女性が開いた「快楽への扉」

女性用風俗、略して「女風」。かつては「男娼」と呼ばれ、ひっそりと存在してきたサービスだが、近年は「レズ風俗」の進出など業態が多様化し、注目を集めている。
女性たちは何を求めて女風を利用し、そこから何を得たのか――
『ルポ 女性用風俗』の著書もあるノンフィクション作家の菅野久美子さんが、現代社会をサバイブする女性たちの心と体の本音に迫るルポ連載。

「性欲の解消」のために利用しているという30代女性にお話を伺ってみると、その背景には複雑な思いが……。

 女風を利用する女性たちの話を聞きたい――、そう決めてTwitterで募集をかけたとき、本当に女性たちから応募があるのかすごく不安だった。そんな中、いの一番に「私で良かったらぜひ協力したい」とDMをくれた女性がいる。それが鈴木梨花さん(仮名・35歳)だ。
 梨花さんはDMで女風の利用動機として、「性欲の解消」というシンプルな理由を挙げていた。なぜ女風を利用しようと思ったのか、その動機を真っ正面から「性欲」だと語る女性は少ない。自分のことをオブラートに包んで話したりしない正直な人、それがまだ見ぬ梨花さんの第一印象だ。私はスマホの文面の向こう側にいる彼女の欲望のカタチをもっと知りたいと感じた。

 3月下旬、長引くまん防明けが目前に迫る休日の新宿駅。駅の改札を出ると、どこもかしこも街は人ごみでごったがえしていて、誰もが浮足立っているように見える。私はそんな喧騒を抜け出し、待ち合わせ場所のデパートのカフェで紅茶を注文し、梨花さんを待っていた。
 私を見つけると、すぐにある女性が駈け寄ってきてくれた。オレンジ系の明るいボブヘアにシルバーのピアス、春らしいベージュ色のトレンチコート。薄手の白いラフなニットを身にまとった今っぽい雰囲気の女性、梨花さん。都内在住の会社員、35歳、一人暮らし、女風利用歴は5年ほど――

母親に言われた「勉強しかできない」

「私、自己肯定感がないから、人と比べて遅れてるんじゃないかってずっと気にしていたんですよ。女風を使うまでセックスでイったこともないし、AV女優さんみたいに激しく感じることもなかった。顔もかわいくもないし、体形にも自信がないんです。全てが世間の平均値に追いついてないんじゃないかってすごく不安に思ってたんです」

 私の目の前に座る梨花さんは、コーヒーを注文するとそう口にした。梨花さんの佇まいはDMの文面と違わず、真面目で実直そのものだ。
 そんな梨花さんから語られるのは、意外にも当初私が想像していた、身を焦がすようなめくるめく性欲の話ではない。代わりに頻繁に飛び出すのは、「自己肯定感」「劣等感」「平均値」という言葉である。それがどう性欲の話とリンクするのだろう、その深層が知りたくて、梨花さんの話に身を乗り出した。

 聞くと、梨花さんは小さい頃から人一倍勉強はできる子だったが、それ以外の事柄について苦手意識が強かったという。「気がきかない」「家事ができない」「あなたは勉強しかできない」母親にそう言われて育ったこともあり、いつもどこか引け目を感じるような日々を送っていた。大学生で処女喪失したときも、人並みになれたとホッとした。
 しかしそれもつかの間、就職して社会人になってからも、劣等感は依然としてくすぶり続けている。
 周囲を見渡すと、性的に奔放な女子たちは弾けて楽しそうだ。彼女たちのように、人並みになりたい。私も彼女たちのように遊べば、「平均値」になれるのかも――

取材を受けてくださった鈴木梨花さん(仮名・35歳)。 撮影:菅野久美子
取材を受けてくださった鈴木梨花さん(仮名・35歳)。 撮影:菅野久美子
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新刊紹介

菅野久美子

かんの・くみこ
ノンフィクション作家。1982年生まれ。
著書に『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『ルポ 女性用風俗』(ちくま新書)などがある。また社会問題や女性の性、生きづらさに関する記事を各種web媒体で多数執筆している。

X:@ujimushipro

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