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ネオ町中華にワンオペ中華……多様化する中国料理の現在地

ますます発展する日本の中華料理

 多様化という意味では、日本人経営の店も同じです。
 グルメ界隈で近年話題に上がるのが「ワンオペ中華」。これはフランス料理における「ネオビストロ」の中国料理版と言えるもの。国内の名店や現地で修業を終えたシェフが、カウンターメインの小規模な店で個性的かつ高品質な料理を提供する店です。現地の発酵調味料や香辛料なども取り入れつつ洗練された味わいの料理を、小ポーションで提供します。もちろん食材も吟味されています。
 お店の作りもまるでフレンチビストロのようにおしゃれで、メニューはお任せコースのみ、時間指定で一斉スタートというスタイルの店もあり、予約がずいぶん先まで取れない店も少なくありません。
 かつてはそれこそ回転テーブルにお馴染みの料理の豪華版を大皿で並べていたような高級宴席中華も、近年では一人前ずつフランス料理のような盛り付けでタイミングをはかって提供するスタイルが浸透しつつあります。
 かと思えば、一時の日本人向け大陸中華の猛攻の中を生き延びた「町中華」は、近年その価値が再発見され、ある種のブームにもなっています。この「町中華」は若干その言葉だけが濫用されて一人歩きしている感もありますが、その気楽で馴染みやすくノスタルジーにも訴えかける存在は、改めて今の日本人の心を捉えているのは確かでしょう。
 そうは言っても、後継者不足という問題もあり、昔ながらの町中華が消えていく傾向も相変わらずではあります。そこで近年現れ始めているのが「ネオ町中華」。昔ながらの町中華のメニューを現代的なオペレーションで再構築した新業態です。パイプ椅子やレトロな看板などもあえてしっかり取り入れ、一部では「ビジネス町中華」と呼ばれていたりもします。
 とある下町に突然現れたその手の店の、メニュー構成やオペレーション、店舗デザインがあまりにも完成度が高くて驚いたことがあります。つまり知らない人が見たら、昔ながらの町中華の店がたまたまそこに移転改装したのかなと勘違いしても全く不思議ではない、見事な再現度ということです。あまりにも気になったのでその店のことをネットで丹念に調べていたら、実はその店は日本有数の中華チェーン企業が運営する最新業態であることがわかってびっくりしました。
 大陸中華、ガチ中華、町中華、高級中華、もちろんそのどれにも当てはまらない店もあります。僕は勝手に「ちょうどいい中華」と呼んでいるのですが、高からず安からず、普段の食事にも使えるけど「ちょっといいものが食べたい」と思った時には少々奮発してご馳走も食べられる、そんな店。言うなればかつて店前のショーケースに「鯉の丸揚げ・時価」の食品サンプルを置いていたような店の生き残りと言えるかもしれません。
 過酷な競争を経て現代に生き残ったそういう店は、内容的に確実な進化を遂げています。本場風の料理や現代風の洗練された料理、流行りの食材なども上手に取り入れつつ、伝統の重さを感じさせる昔ながらの中華料理をプライドを持って提供しています。「外国の料理は本場そのものの味じゃないと」と思いがちな僕ですが、そういう店の魅力はやっぱり捨てがたいものがあります。

 そんなふうに、現代日本における中華料理・中国料理は、伝統と革新がさまざまに入り乱れ、多様化しつつ確実にレベルアップしているのをひしひしと感じます。
 みんなどんだけ中華好きなんだよ! っていう話かもしれませんね。

イラスト:森優
イラスト:森優

次回は12/9(金)公開予定です。

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稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人・飲食店プロデューサー。鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
和食、ビストロ、インド料理など、幅広いジャンルの飲食店25店舗(海外はベトナムにも出店)の展開に尽力する。
2011年には、東京駅八重洲地下街にカウンター席主体の南インド料理店「エリックサウス」を開店。
Twitter @inadashunsukeなどで情報を発信し、「サイゼリヤ100%☆活用術」なども話題に。
著書に『おいしいもので できている』(リトルモア)、『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』『飲食店の本当にスゴい人々』(扶桑社新書)、『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分!本格インドカレー』『だいたい1ステップか2ステップ!なのに本格インドカレー』(柴田書店)、『チキンカレーultimate21+の攻略法』(講談社)、『カレー、スープ、煮込み。うまさ格上げ おうちごはん革命 スパイス&ハーブだけで、プロの味に大変身!』(アスコム)、『キッチンが呼んでる!』(小学館)など。最新刊は『ミニマル料理』(柴田書店)、『個性を極めて使いこなす スパイス完全ガイド』(西東社)。

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