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「真面目な夫」と「刺激的な男」両方手に入れて何が悪い? 結婚に飽きた妻のモラルが崩壊した瞬間(第7話 妻:麻美)

あなたは「結婚」という制度に疑問を感じたことはないだろうか。 連日メディアを騒がせる不倫ゴシップは氷山の一角。女性の社会進出、SNSや出会い系アプリの普及……結婚制度が定められた120年以上前とは、社会も価値観も何もかも違っているのだ。 これは、時代にそぐわぬ結婚制度の抜け穴を探し始めた、とある夫婦の物語。 仮面夫婦状態の櫻井夫婦。夫・康介は弁護士事務所からの独立を考え、妻・麻美の理解を得るべく、すでに独立した先輩のホームパーティーに誘う。麻美は仕事を理由に断るが、康介に一方的に却下され、衝動的に家を飛び出してしまった――。 前話はこちら。全話一覧はこちら。 (隔週土曜で更新予定です)

夫への怒りを鎮める、いとも簡単な方法

桜の季節も過ぎ去り、すっかり温かい日々が続いていると思っていた。

けれど深夜ともなると気温はぐっと下がり、さらに冷たい風まで吹いている。

「さむ……」

外気にさらされた腕に一気に鳥肌が立ち、思わず小さく声を上げる。上着を持たず衝動的に家を飛び出したことを後悔するも、すぐに戻る気にはなれなかった。

――旦那より小銭稼ぎが大事?そもそも毎日暇だろ?――

つい先ほどの夫の言葉を思い出すと、頭に火花が散るような怒りが走る。

「……もうやだ」

傍から見れば、大した悩みではないかもしれない。

稼ぎのいい男と結婚し、専業主婦として夫の庇護の下でぬくぬく暮らしている。何がそんなに不満なのかと言われれば、自分でもうまく言語化できない。

でも今は、このぬるま湯に浸かり続けるのがどうしようもなく窮屈なのだ。

窮屈で窮屈で、なのにうまく身動きが取れない。どう動いていいのか分からず苦しい。そんな自分が惨めで仕方ないし、そして何より、動きを阻もうとする夫が憎い。

麻美は自分の身体を抱き抱えるように夜道を歩きコンビニへ向かう。そのとき、スマホが振動した。

『来週、イタリアン予約したよ。この店でどうですか?』

LINEの送り主は晋也だった。そこには最近評判の広尾のイタリアンのリンクが貼ってある。

すると不思議なことが起きた。

「…………」

まるで麻酔が行き渡るように、たった今まで全身を支配していた夫への痛いほどの激しい怒りがみるみる消えていったのだ。

麻美は思わずその場に立ち尽くす。

これほど簡単な方法を、なぜ今まで使わずに一人で耐えていたのだろう。

品方向性に生きていたって、何の意味もないのに。特効薬があるなら使えばいい。副作用? そんなもの気にしない。

麻美はすっかり気分を鎮めると『楽しみにしてます』と晋也に短い返信を送り、くるりと踵を返し自宅へ戻ったのだった。

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新刊紹介

山本理沙

やまもと・りさ●84年 東京都生まれ。日本女子大学文学部卒卒業後、外資系航空会社客室乗務員、金融機関・コンサルティングファームの秘書業務を経てフリーランスへ。
2015年〜2019年に東京カレンダーWEBにて『東京婚活事情』『結婚願望のない男』『東京ホテル・ストーリー』など多数執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(里奈Ver.)共著原作者。『不良夫婦』では(妻side)を執筆。

Instagram●Lisa_fluffy
Twitter●山本理沙/WEB作家




安本由佳

やすもと・ゆか●81年 奈良県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、化粧品会社広報、損害保険会社IT部門勤務を経てフリーランスへ。
2016年〜2020年1月 東京カレンダーWEBにて『二子玉川の妻たちは』『私、港区女子になれない』など多数の連載を執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(廉Ver.)の共著原作者。『不良夫婦』では(夫side)を執筆。

オフィシャルサイト●安本由佳
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Twitter●安本由佳|WEB作家@軽井沢

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