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不良夫婦

「あなたの夫に、何度も抱かれた」知らぬは男だけ…不倫女と本妻の修羅場(第20話 夫:康介)

「年収が減ってもいい」不良妻が夫の独立を応援してくれた理由

「いい感じになってきたね」

背後から声が聞こえて振り返ると、ニットワンピース姿の麻美が微笑みながら立っていた。

日比谷公園からほど近いオフィスビルの一室。業者から内装工事が終わったと連絡があったので見に来たところ、妻も同じ考えだったようだ。

「やっぱり壁は白くして正解。実際よりずっと広く見える」

ぐるりと部屋を見渡し、麻美は満足そうに呟いている。康介も「そうだな」とうなずき、二人は自然と目を合わせて笑い合った。

こんな風に夫婦で寄り添える日が来るとは――半年前には想像もしていなかった。

康介は瑠璃子との不倫に溺れていて、離婚したっていいとまで思っていた。麻美も麻美で男がいたし、あのとき妻が「子作りしよう」と言い出さなければ、夫婦関係が終わっていてもおかしくなかった。

しかし、麻美は妊娠した。体外受精が一回でうまくいき、あっさり子どもを授かったのだ。

そして妊娠がわかると、麻美は人が変わったように穏やかになった。

見たことがないほど幸せそうな顔でしきりにお腹を撫でており、そんな妻の姿は、一緒にいる康介まで癒し、心を浄化させるような神々しさがあった。

子どもの存在が麻美をこれほど幸福で包むとは。どうしてもっと早く叶えてやらなかったのかと反省したほどだ。

独立したらいいと、最後に背中を押してくれたのも麻美だった。

大手法律事務所に勤めていても、出世の可能性もなく、こき使われるだけの存在に辟易し、康介はずっと独立を願ってきた。

しかし最後の一歩を踏み出せないでいたのは、現在2,000万円近くもらっている年収が少なくとも一度はガクンと下がってしまうことだ。可愛がってくれる先輩の栗林が「ウチに来ないか」と誘ってもくれたが、提示された年棒は半分で心が動かなかった。

そんな中、麻美がこう言ってくれたのだ。

「お金のことなら、まあ大丈夫よ。コウちゃんが資金を出してくれたおかげでエステが順調なの。産後、私の代わりに働いてくれるスタッフも用意できたし。コウちゃんがしばらく稼げなくても、今の生活レベルなら維持できる」

麻美が起業すると言い出した時、康介は猛反対した。夫は外で働き、妻は家にいて、夫のサポートに徹する。それこそが理想の夫婦像だと信じていたからだ。

しかし結果はどうだろう。麻美が反対を押し切り、女社長として手腕を発揮してくれたおかげで康介の独立が叶った。

事務所の物件探しでも、リフォーム業者を選ぶ際も、麻美の直感と判断力に大いに助けられた。今や専業主婦だった頃よりずっと手厚いサポートを受けていると言っていい。

互いの希望を尊重し、助け合う。その方がよっぽどストレスフリーで建設的だと、今回のことで身をもって学んだ。

――俺たちは、ようやく本当の夫婦になれたのかもしれないな。

ガランとしたオフィスに佇む妊娠5ヶ月の妻を、康介はそっと後ろから抱きしめた。

(文/安本由佳)

※次回(妻:麻美side)は11月6日(土)公開予定です

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山本理沙

やまもと・りさ●84年 東京都生まれ。日本女子大学文学部卒卒業後、外資系航空会社客室乗務員、金融機関・コンサルティングファームの秘書業務を経てフリーランスへ。
2015年〜2019年に東京カレンダーWEBにて『東京婚活事情』『結婚願望のない男』『東京ホテル・ストーリー』など多数執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(里奈Ver.)共著原作者。『不良夫婦』では(妻side)を執筆。

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安本由佳

やすもと・ゆか●81年 奈良県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、化粧品会社広報、損害保険会社IT部門勤務を経てフリーランスへ。
2016年〜2020年1月 東京カレンダーWEBにて『二子玉川の妻たちは』『私、港区女子になれない』など多数の連載を執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(廉Ver.)の共著原作者。『不良夫婦』では(夫side)を執筆。

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