2021.9.25
子作りを拒否し続けてきた夫が、妻の「体外受精提案」に快く応じた理由(第18話 夫:康介)
「よその女を気遣う余裕はない」不良男の身勝手
『先生、今夜は会える?会いたい』
『連絡して』
『どうして無視するの』
自宅書斎のデスクでLINEを確認し、どっと気が重くなった。
瑠璃子から日に何通も届く文面は、徐々に焦燥を増して康介を追い詰めてくる。
そろそろ返信しなければと思うものの、どうしても指が動かなかった。今後どういう態度をとるべきか、まだ決めかねているからだ。
自分でも心境の変化に戸惑うが、麻美と間男の密会を目撃した瞬間、瑠璃子に対し確かに感じていたはずの愛着が嘘のように消えた。
『先生、先生』と甘えた声を出し、肌を密着させてくる彼女を思い出しても、今となっては鬱陶しさが先にくる。
男は慢心から浮気に走るものらしいが、確かにそうなのかもしれない。
妻に心をかき乱され「二人の今後について話したい」などと意味深に言われた今となっては、よその女を気にする余裕が持てないのだ。
「こうちゃん、18時には出られそう?」
ドア越しに麻美の声がして、慌ててスマホ画面を裏返す。
今日はこの後、妻と出かける予定だ。おそらく彼女から「二人の今後」について何かしらの提案があるに違いない。
努めて平常心で「ああ、大丈夫」と答えながら、ふと思い直して再びスマホを手に取る。そして、迷いつつも「ごめん、今日は難しい。連絡する」と返信を打った。
……とにかく今夜は妻との会話に集中しなければ。余計な雑音に邪魔をされたくなかった。