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小野一光「限界風俗嬢」

二児の母を人妻デリヘルへ追い込んだ、義実家からの“経済的DV”

子供の水着や林間学校の費用のために

 スポーツ紙の原稿では、勤務先のアパレル会社で産休を取っていると書いたが、現実のアヤカは、妊娠がわかった段階で販売員の仕事を続けるのは難しいからと退職していた。
「上の子の学校にかかるおカネをどうにかしなきゃと思って、バイトを探してたんですけど、妊娠していると、なかなか普通に働けるところがないんです。それでいろいろ見ていたら、妊婦でも風俗の仕事ができるんだと知って……」
 週に三日程度出勤し、一日に多くて三人くらいの客を取っている。
「この仕事を始めてからの稼ぎは、十一万から十二万円くらいです。子供のプール用の水着を買ったり、林間学校の費用に遣ったりしました。肝心の貯金はまだ少ししかできていませんけどね」
 稼いだおカネを、本当に子供のためにしか遣っていないというのは、彼女の質素な身なりと、素朴な口ぶりで理解できる。
「妊婦ということで、もし出産に影響があったらとか、そんなことを考えたりしない?」
「もちろん心配はありましたけど、それしか仕事がなかったから……。あと、お客さんも私が妊婦ということで、意外と気を遣ってくれるんで、そんなに乱暴に扱われるということはないですね」
「さっき、初めて風俗の仕事をやったときの話で、自分の体をそんなに重要じゃないと思うって口にしていたけど、性行為に嫌悪感を抱いていたりはしない?」
「うーん、セックスはそれほど好きではないですね。しなくて済んだらそれでいいし、向こうがしたいなら、してもいいって感じです。まあ、好きな相手とくっついているのは好きなんで、その延長線上っていうか……嫌ではないですけど、自分からガツガツということはないですね」
「セックスでイクとかはある?」
「まあそこは、触られると勝手にイクものだと思ってます。だからイッたりすることは何回もありますよ。あと、ムラムラすることもありますし……。でも、そこまで積極的でなくてもいいかなって……」

母として、娘としての思い

 私は、出産後の仕事はどうするつもりか尋ねた。
「子供の首が据われば託児所に入れられるんで、なにかバイトをしようかなとは思ってますね。スーパーの品出しとかの、あまり時間のかからないやつ。ただ、いまの店のスタッフからは、『母乳(風俗)はウケるよ』とも言われてて、迷うところなんですよね。本心ではあまりしたくないんですけど、ただ、稼げるんだよなーって。それに風俗って、時間の融通が利くじゃないですか。子供の学校行事には参加したいので、風俗の仕事だったら行事に出られるよな、とか……」
 ここまでを口にしたアヤカは「ただ……」と言葉を続ける。
「子供が大きくなったときに、親が風俗してるとわかったら、どうなのかなとは思うんですよね」
「やっぱり罪悪感はあるわけだ」
「いや、現状では罪悪感はそんなにないんですよ。やっぱりあくまでも仕事だから、店でやってることは演技かなって思うし」
 
 事前にアヤカと約束していた取材時間は一時間。そのなかには写真撮影も含まれている。そろそろ取材を終えようと考えたところで、ふと、聞き忘れていたことを思い出した。私は切り出す。
「そういえば、アヤカさんって、お母さんに対しては、いまはどういう感情なの? たとえば“お父さん”にアヤカさんが虐待を受けていたときに、止めるでもなく見て見ぬふりをしていたわけだし、その後も会社勤めをしているときには、給料の三分の二を家に入れたりとか……」
「まあ、昔のことは、母もしょうがなかったのかなって思います。妹も小さかったし……。だから恨みとかはないですね。逆に育ててもらったことに感謝しています。いまはうちの子供も可愛がってもらってますしね」
 その言葉を聞き、母親とはすごいな、と素直に感じた。改めて説明するまでもないが、ここでの母親とはアヤカさんのことだ。現在は己の体を張って子供に注ぎ、過去の自分に苦悩をもたらした母親をゆるし、それどころか感謝までしている。
たしかに一度は結婚で間違えたが、彼女は決して同じてつは踏まないだろう、そんな気がした。

三年後に再会したアヤカのお腹には、また新たな命が……。
次回は10月30日(金)公開予定です。

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小野一光

おの・いっこう●1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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