性暴力の記憶、セックスレスの悩み、容姿へのコンプレックス――それぞれの「限界」を抱えて、身体を売る女性たち。
そこには、お金だけではない何かを求める思いがある。
ノンフィクションライターの小野一光が聞いた、彼女たちの事情とは。
今回は、第1回から4回にわたり登場したSMクラブで働く女子大生、アヤメが、風俗の仕事をやめるに至った理由が語られます。
2020.2.7
女子大生風俗嬢が悟った「卒業」のタイミング
学ぶことは学べたから、卒業かな……
アヤメがLINE(ライン)で送ってきたアルバイトのスケジュール表にある、深夜営業のバーについて尋ねると、ガールズバーだと彼女は答えた。いわゆる、女性がカウンター越しに接客するバーのことだ。そこで、なぜその仕事を選んだのか聞く。
「最初に、スナックとかキャバクラとかを選びたかったんですけど、そのときけっこう太ってて、で、とにかく風俗からは上がりたかったんですね。だからとりあえずなんか水商売で仕事をって考えてて、まあ、経験も少しはあるし、それで……」
「風俗から上がったのはいつだったっけ?」
「上がったのは、三年のときですね」
「ていうことは、二回目のお店紹介でインタビューした、あの店が最後?」
「あそこが最後です」
「なぜ上がりたいと思ったの?」
「いやもう、ほんとに急でしたあれは。なにかトラブルがあって、とかじゃないんです。出勤時間フルで買い取ってくれるお客さんとかもいたくらいなんですけど、急に飽きたなって……」
アヤメはそこで、「ふふふ……」と笑い声を漏らす。思い出し笑いとも、困惑したときに出る笑いともつかぬ種類のものだ。
「なんかこのまんま続けても……たぶん新しい子とか入ってきて、自分が年齢的には若いけど、入ったとき順では自分がどんどん上の方になっていって、そのまま自分が年齢を重ねてこの仕事を続けていってもって思い始めたのかなって……」
「じゃあ別に、仕事そのものに対する拒絶感っていうんじゃないんだ」
「はい。……卒業かなって思ったんです」
「そもそも最初の風俗での仕事にSMの店を選んだっていうのは、前に話してた、そのとき勉強していたこととの繋がり?」
「そうですね。はい。なんか、学ぶことは学べたかなって思うんです。いろいろ。それで卒業だってなって、昼間の仕事もちょっとやってみようかなと思って、『××』を受けたんです」
彼女が名前を挙げたのは、全国チェーンのコーヒー店だ。