よみタイ

小野一光「限界風俗嬢」

上京したての19歳バスガイドがハマったホストの世界

“ワンナイトラブ”を繰り返す日々

 ハルカは都内のバス会社の寮に入った。二人で一部屋という生活だ。初キスが十八歳と聞いている私は、その状況を知りたくて、「で、どういう相手とだったわけ?」と聞く。

「いやあ、最初にキスとエッチをした人って、行きずりだったんだよねえ~」
 ややバツの悪そうな顔で彼女は答える。

「会社に入って一、二カ月くらいのときでしたね。地元に帰って高校時代の友達と盛り場に行ったのね。そこでナンパされて、最初は二対二だったのが、いつの間にか一対一になってたの。それでなんか向こうが迫ってきて、向こうの家で……」
「え、なにやってる人?」
「なにやってる人かもわかんない。やーだー、もぉーっ。向こうが歳は上だった。それしか知らない」

 いやいや、「やーだー、もぉーっ」って言われても……。胸の内でそう思う。そして聞く。

「やっちゃおうと思ったのはなんで?」
「ええっ、興味があったんだよーっ」

 やや頬を赤くして言う。こういうとき、周囲を気にせずに済むカラオケボックスは便利だ。私はストレートに質問する。

「自分の性欲っていつ頃感じ始めたの?」
「高校生くらいのときかなあ。オナニーもそうだし……。それですごい興味があったの」
「でも、初エッチって良くはないでしょ?」
「ああっ、全然、全然。まったく楽しめてない。なんかすごく妄想が膨らんでたから、すごいあっけないというか、感動はない」

 我が意を得たりというのか、ハルカは“激しく同意”した。だが、その初体験からしばらくは、好奇心の赴くまま行動していたようだ。彼女は切り出す。

「それから~、地元で一緒に遊びに出る子がワンナイトラブをわりとやる子で、ワンナイトラブとか、ちょっと続いたりとか……」

 友だちのせいにしているが、彼女自身もそういう生活を繰り返していたということ。門限が午後十時の寮では、それまでに帰らない場合は外泊届を出さないといけなかったが、毎週のように外泊していたらしい。

「そうしたら寮母さんから、『××さんは寮にいたくないんですか?』って言われて……。あ、××って私の旧姓ですね。で、このままだったら寮を出てもらうことになる、みたいになって、ヤバイ、それはマズイって、節制することにしたの。それで地元に帰らなくなって、今度はこっちで同期の友だちと飲みに行ったり、あと、合コンがあったりとか……」
 
 つまりは遊び場所が変わっただけだと思ったが、それは口にしない。

「ただ、合コンではあまりワンナイトラブはなかったですね。付き合ってと言われたりしたけど、『それはちょっと……』って断ったりとか。性的な魅力を感じない人ばっかりで、そういう人が続いたかな」
「どういう人がいいわけ?」
「そのときはねえ、いま思えば、ちょっと危険な感じがする人に魅かれてたかも」

 やがてハルカはバスガイド仲間のなかで、一期上の先輩たちと遊ぶようになる。そこで彼女たちとともに、ホストクラブに出入りするようになったという。私が「初めて経験したホストクラブはどうだった?」と尋ねると、「いやあ、最初は引きましたね」と笑う。

「危険な香りがする人が好きなのに、あそこまでギラギラしてる人たちは嫌だ、みたいな」

 だがのちに、そんなホストのひとりと付き合うようになったというのだから、人生はわからない。

「店に行ったら、入れ替わり立ち替わりホストがやって来るわけですよ。そのなかで、遊びに行こうよって、言い寄ってくる人がいたんですね。それで二対二ですよ。友だちと一緒にカラオケとかにアフターで行って、連絡先を交換したら、電話がかかってきて、今度二人で遊びに行こうって。でもすっごい断ってたのね。いやあ、チャラいとか思って。じゃあまた二対二でって言われて、それならいいよってことを繰り返してたんです。で、なんとなく悪い人じゃないってわかったから、じゃあ一対一でいいよって、会うようになって、付き合うようになって……」
「相手はいくつくらい?」
「五歳上かな。私がガイド一年目の終わりから二年目にかけての時期だったから、十九のときですね」
「どうして彼とは深くなったの?」
「ああ、やっぱりねえ~、エッチしてからかな。あははは……」
 
 そこまで聞いた私が心配したのは、ホストクラブでの支払いについて。テレビなどの影響で、女の子に何十万や何百万円を遣わせるのではないかとの先入観があったのだ。だがハルカは軽く否定する。

「いやいや、そもそも店に来てくれとかはほとんど言われなかったんで。それで店に行っても、支払いは一万円ちょっとくらいだったし……」

 ちなみに、当時の彼女の月給は、手取りで二十二、三万円くらいあったそうだ。

「バスガイドって基本給に加えて、距離が長くなると追加があったり、一緒に写る写真代とか、チップだとかがあって、そのくらいにはなってましたね。だから、遊びに出ても余裕があったの」

 二十歳前にそれだけの収入があれば、未成年での飲酒の問題はさておき、先輩たちと遊び歩くという行動も頷ける。

「で、会いたいから彼の店に行くじゃないですか。それでいつも一万円ちょっとなんで、逆に気になって、自分からなんか頼んだほうがいいかなって聞いたことあるんですね。そうしたら、『いや、お前はいいから』って言われてて……」

 じつはここで押さずに引くのは、ホストの常套手段なのだが、当然ながら若い彼女は気づかない。それどころか、自分だけは特別な存在なのだと、彼に対する気持ちはますます高まっていく。やがて、ホスト仲間と部屋をシェアしていた彼から、別の場所で一緒に住むことを提案されたハルカは、彼との同棲を機に、バスガイドを辞めることにした。仕事に就いて一年半を経たときのことだ。目の前のハルカは遠い過去を振り返る。

「しばらく仕事に就かず、求人誌を見てたんですね。そしたら彼に言われたんだよなあ~。『風俗で働いてみない?』って。当時の私って、風俗ってなにをやるのか知らなかったんですよね。『なにそれ?』って。それで彼のホストの先輩の彼女さんがソープ嬢で、その人が業界を知ってるから、いい店を見つけてくれるからってなって……。それで本番のないヘルスにしようって……」

愛する彼のため、風俗デビューを決意したハルカ。そこから彼女は「性の勇者」として奔放に歩み始める……。第11回は1月17日(金)更新予定です。
「SMクラブで働くエリート女子大生アヤメ」の回はこちら。「歌舞伎町で働く理系女子大生リカ」の回はこちら

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小野一光

おの・いっこう●1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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