よみタイ

「キャバ嬢は自由の象徴」――歌舞伎町で働く理系女子大生

キャバ嬢、エンジニアのWワーク

 二人で連れ立って中央通りにある喫茶店へと向かう。まずは腹ごしらえだ。リカはパスタを、私はブレンドコーヒーを頼む。
 彼女の貴重な食事の時間を邪魔しないように、合間を見て基礎的な情報を聞き、踏み込んだ話は周囲を気にしなくても済むカラオケボックスでしようと考えていた。

「朝キャバは午前九時に入って、上がりが午後一時から四時くらいまでです。お客さんはわりと同業者が多いですよ。ホストとかバーの人とか。あとはおカネを持ってる経営者とか、休日のサラリーマンなんて人も来ます。それで、昼はフリーランスでITエンジニアの仕事をやってます。じつはいま本当なら大学三年生なんですけど、昼間のフリーの仕事が安定しちゃったんで、今年三月(二年次)から休学してるんですよ。仕事の内容はプログラミングとかサイトの構築、それにホームページ管理とかですね。あと、元々ゲーマーだったんで、ゲームのプログラミングもしてます」

 休学中の学校について、リカは都内にある理系の大学の名を挙げた。ちなみに受験時には国立の東京農工大学や私立の早稲田大学にも受かっていたそうで、その話から彼女が高い学力の持ち主であることがわかる。さらにいえば、プログラミングについても、最初は独学で始めたとのこと。

「それでいまは夜キャバもやってるんですけど、そっちは歌舞伎(町)じゃなくて、新宿三丁目です。午後七時に店開けて、八時から営業、それで十二時くらいまで。終わってから家に帰って、昼の仕事の残りをやったり、キャバのお客さんに電話をかけたり、ラインを返したり……だいたい寝るのが午前三時、四時で、六時には起きて、朝キャバのお客さんからの連絡が入るんで、七時か八時には家を出てます」

 若いからこそ可能なのだろうが、それでも生き急いでいる感は否めない。目の前の私はただその詰め込み度合いに唖然としながらメモを取る。そして質問を挟んだ。

「朝と夜は六本木とか銀座じゃなくて、新宿を選んだのはどうして?」
「やっぱり自分のなかで、キャバといえば、歌舞伎(町)っていうのがあるんですよね。あとなんか、キャバ嬢をやってるのだって、自由に生きたいからなんですよ。縛られてばっかりだから。いま住んでるの実家だし……。最初は会社を始める資金を集めるために始めたキャバだったんですけど、仕事が面白いんですよね。だって、お酒飲みながら、まったく違う世界の人の話を聞けるのって、キャバしかないじゃないですか。私って色恋(営業)とか枕(営業)って一切しないんですね。でも、そんな私のこと気に入って呼んでくれる人とかいるし、もう、出会いの場ですよ。こんな面白い世界、他にないと思います」

 リカにとって自由の象徴がキャバ嬢だという意味の発言が印象に残る。彼女はいったいなにに縛られてばかりなのだろうか。だが、ここで性急に回答を求めるのはよそう。

 続いて私は彼女の昼の仕事について尋ねることにした。すると、フリーランスのITエンジニアでありながら、大学を休学したこの三月に知人らと会社を立ち上げ、彼女が代表取締役に就任したとの話が出てきた。

「共同経営者は二人いて、両方とも朝キャバで知り合った人です。一人は元々ビジュアル系のバンドマンなんですけど、アフターで飲みに出て、じつはフリーランスでエンジニアをやってることがわかったんですね。その飲みで一緒にいたのが美容系の会社の社長で、そこのシステムを作るって話になったんですけど、それならばきちんと会社を作ろうって、その社長を含めた三人で立ち上げることにしたんです。会社の設立にかかった二千万円は、私のポケットマネーから出しました。西新宿のビルをオフィスにしてるんですけど、メンバーは共同経営者と、ほかに二人くらい。あとは外注でお願いしてるという状況です」

 ポケットマネーの話に限らず、実現したことのスケールとスピード感に驚かされる。現実にカネを動かす客と接する世界に身を置いているから、育まれた感覚なのだろうか。だが、次に彼女の口から出てきた言葉からは、現実の厳しさも感じられる。

「プログラミングの仕事自体は、一本何百万や何千万円というのもあるし、すべては内容次第です。それこそ五百万から二千六百万円の仕事がありました。ただ、私は疲れたら仕事はしないんで……。最近はメンタル的にも、体調的にもキツイんで、そっちはちょっと休もうかなって、自分のなかではそんな感じになってますね。で、そうしたら仕事のうち朝キャバだけを残そうと思ってます」

 この話をしたのは八月のこと。つまり起業からまだ五カ月ということになる。その時期にこうした弱音が出てくるということは、突っ走ってはいるものの、やはり疲弊しているのではないか。
 私は自分が抱いた感想を胸の内で折り畳み、奥に仕舞いこむ。

なぜリカはここまで生き急ぐのか――。幼少期からの波乱の日々とは。第6回に続く
「SMクラブで働く女子大生アヤメ」連載第1回はこちら。
連載第2回はこちら。
連載第3回はこちら。
連載第4回はこちら。

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小野一光

おの・いっこう
1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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