よみタイ

ここは危険じゃない――風俗という「安全地帯」にいる女の子

アヤメの親友、キャバクラ嬢の「リカ」

「そういえば、私の中高時代の同級生で、親友の子がいるんですけど、彼女もかなり驚くような人生を送ってるんですよ……」
 
 ふいにアヤメが切り出した。

「え、どんな?」
「やっぱり性虐待を受けてるんですけど、気になります? 紹介しましょうか」
「可能なら、ぜひお願いしたいんだけど」
 当然、私の頭のなかには件の週刊誌での連載企画があった。このアヤメが驚く内容なのだ。中途半端なことであるはずがない。

「じゃあ、ちょっと電話してみますね」
 目の前で彼女はスマホを手に取ると、電話をかけた。

「あ、もしもし、元気ぃ~」

 相手はすんなり電話に出たようだ。アヤメは自分が取材を受けていることを話すと、電話の相手の彼女にも話を聞かせてあげてと依頼している。

「え? くそオヤジのこと? そうそう。その話とか……」
 
 まだ私はどういう内容か知らない。

「ちょっと待ってね、いま目の前にいるんで代わるから」
 そう口にするとアヤメはスマホを私に渡し、「リカです」とだけ言った。

「あ、突然のご連絡すみません。小野と申します……」
 
 それから私は企画の趣旨を説明した。どちらかといえばアヤメよりもフランクな口調のリカは、「あ、いいですよ~」と気軽に言った。
「ただ私、朝キャバやってるんですね。だからそれが終わってからになるんですけど、大丈夫ですか?」
 いわゆる日の出から店を開けているキャバクラのことだ。目の前のアヤメは相変わらず化粧っ気が少なく、服装もワンピースでおとなしいものだ。そんな彼女の親友がキャバ嬢というのが、妙におかしかった。

 私はリカに対して、アヤメから彼女のライン(LINE)IDを聞くことの許可を得て、改めてラインで待ち合わせについてやり取りすることを伝えた。

「は~い」
 リカはあくまでも明るい。私はスマホをアヤメに戻した。

「まあ、本人から直接聞くのがいちばんいいと思うので、連絡してあげてください」
 カラオケボックスを出ての帰り際、アヤメは言った。私は頷き、感謝を口にする。
「今日はどうもありがとう。また連絡するね」
「はい、また話を聞いてください。ありがとうございました」

 丁寧に頭を下げて帰途につく彼女の後姿を見送りながら、とあることが頭に浮かんだ。
 そういえば“アヤメ”って、漢字に変換したら“殺め”になるんだ、と。

アヤメに紹介された女の子・キャバクラ嬢「リカ」の過去とは? 第5回に続く
「SMクラブで働く女子大生アヤメ」連載第1回はこちら。
連載第2回はこちら。
連載第3回はこちら。

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小野一光

おの・いっこう
1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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