2019.11.29
ここは危険じゃない――風俗という「安全地帯」にいる女の子
アヤメの親友、キャバクラ嬢の「リカ」
「そういえば、私の中高時代の同級生で、親友の子がいるんですけど、彼女もかなり驚くような人生を送ってるんですよ……」
ふいにアヤメが切り出した。
「え、どんな?」
「やっぱり性虐待を受けてるんですけど、気になります? 紹介しましょうか」
「可能なら、ぜひお願いしたいんだけど」
当然、私の頭のなかには件の週刊誌での連載企画があった。このアヤメが驚く内容なのだ。中途半端なことであるはずがない。
「じゃあ、ちょっと電話してみますね」
目の前で彼女はスマホを手に取ると、電話をかけた。
「あ、もしもし、元気ぃ~」
相手はすんなり電話に出たようだ。アヤメは自分が取材を受けていることを話すと、電話の相手の彼女にも話を聞かせてあげてと依頼している。
「え? くそオヤジのこと? そうそう。その話とか……」
まだ私はどういう内容か知らない。
「ちょっと待ってね、いま目の前にいるんで代わるから」
そう口にするとアヤメはスマホを私に渡し、「リカです」とだけ言った。
「あ、突然のご連絡すみません。小野と申します……」
それから私は企画の趣旨を説明した。どちらかといえばアヤメよりもフランクな口調のリカは、「あ、いいですよ~」と気軽に言った。
「ただ私、朝キャバやってるんですね。だからそれが終わってからになるんですけど、大丈夫ですか?」
いわゆる日の出から店を開けているキャバクラのことだ。目の前のアヤメは相変わらず化粧っ気が少なく、服装もワンピースでおとなしいものだ。そんな彼女の親友がキャバ嬢というのが、妙におかしかった。
私はリカに対して、アヤメから彼女のライン(LINE)IDを聞くことの許可を得て、改めてラインで待ち合わせについてやり取りすることを伝えた。
「は~い」
リカはあくまでも明るい。私はスマホをアヤメに戻した。
「まあ、本人から直接聞くのがいちばんいいと思うので、連絡してあげてください」
カラオケボックスを出ての帰り際、アヤメは言った。私は頷き、感謝を口にする。
「今日はどうもありがとう。また連絡するね」
「はい、また話を聞いてください。ありがとうございました」
丁寧に頭を下げて帰途につく彼女の後姿を見送りながら、とあることが頭に浮かんだ。
そういえば“アヤメ”って、漢字に変換したら“殺め”になるんだ、と。
アヤメに紹介された女の子・キャバクラ嬢「リカ」の過去とは? 第5回に続く
「SMクラブで働く女子大生アヤメ」連載第1回はこちら。
連載第2回はこちら。
連載第3回はこちら。