2019.11.8
シェークスピア研究からSMクラブで働くことを選んだエリート女子大生
「私って中学から高校にかけてエンコーをしてたんですね」
この店で初めてSMを体験したというアヤメに、プレイは平気だったかと問いかけたところ、笑みを浮かべて言う。
「縛りやロウソクなんかを初めて経験して、気持ちいいって感じました。それも肉体的にというより、性的な興奮と心の快感があるんです。実際に体験してみて、私はもともとそういうのが好きなんだなって自覚しました」
「どういうプレイにいちばん興奮した?」
「やっぱり縛りには興奮しちゃいました。身動きがとれずに、すごくドキドキしているところを、オモチャで責められて、いい意味で仕事を忘れて快感に浸りました」
大胆なことを淡々と語る。その落ち着いた態度の裏に性的な経験の多さを感じた。
「これまで風俗の仕事は経験あるの?」
「いえ、風俗はこの店が初めてです。ただ、私って中学から高校にかけてエンコーをしてたんですね。だからそういう意味での抵抗はありませんでした」
エンコー、つまり援助交際という名の、端的に言ってしまえば売春行為である。私自身は取材で過去に何人もの援交少女の話を聞いてきたが、こればかりは本当に相手の外見から判断がつかない。ごく普通に街中を歩いている、あの子やこの子が援交をしていたりするのだ。また逆に、いかにも援交をしていそうなあの子やこの子が、そういう世界にまったく近づかずにいたりもする。
もっとアヤメに話を聞きたいと思ったが、取材で私に与えられているのは三十分ほど。そのなかで記事のための、下着や上半身ヌード姿の撮影もしなければならない。
当時、私は週刊誌で、“訳あり”の一般女性に、これまでの人生や性体験について振り返ってもらう連載を始めることが決まっており、下準備を始めていた。援交少女だった彼女の体験も、その企画趣旨に合うのではないかと頭に浮かぶ。
「あの、ところで……」
インタビューに続いての撮影を終え、服を着ようとしているアヤメに向かって私は切り出した。いずれ始める週刊誌の連載で、ぜひとも話を聞かせてもらいたいのです、と。その記事では店名を出すことができないため、店を通しての取材申し込みではなく、個人的に連絡を取って、改めて外で話を聞く機会をいただけないかとお願いした。
「べつにいいですよ」
アヤメはなんの躊躇もなく、即答した。「ただ……」彼女は続ける。
「けっこうびっくりしちゃうと思いますよ。私って小学生の頃から学校でイジメられたりとかしてたし、いろいろあったから……」
「いや、そういう内容も含めて話を聞ければと思ってるから」
私はさして深読みすることなく、話が聞けることに舞い上がっていた。件の週刊誌の連載準備に際しては、活字映えする事情を抱えた女性を探すことに苦労している。今回、アヤメに取材の約束を取り付けたことで、一回分がなんとかなる。そういった種類の安堵が自分のなかにあった。
その日、取材を終えてこれから“仕事”だという彼女とは、連絡先を交換して和やかに別れた。
アヤメが口にした「けっこうびっくりしちゃうと思いますよ」という過去とは……? 第2回に続く