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鈴木涼美「×××な男~酒と泪とオトコと美学」
○○○な女〜オンナはそれを我慢している」のアンサーソングともいうべき新連載は、気鋭の文筆家・鈴木涼美によるオンナ目線の男性論。とはいえ、ここで取り上げるのは現代を生きる「今」のオトコたちの生態事情。かつてはもてはやされた男性像が、かつては相手にもされなかった男性キャラが、令和の今、どんな進化・退化・変遷を遂げているのか? 冴え渡る涼美節・男性論に乞うご期待!

自称ドS男〜2019年秋までの統計で当たりくじゼロの話

私の本名はスズキミドリといって学生時代は「イニシャルがSMでーす。二面性ありまーす」というのが一番脇の甘い合コンの自己紹介だったのだけど(ちなみにもうちょっと脇を締めると「人呼んで鈴木ムネオだっちゅーの、ムギュ」とかもあった。7年前に新聞社の新人にパイレーツってなんですか?って聞かれてからお蔵に入れた)、そんな誰も聞いてない自己紹介をしてもしなくても、飲み会でS?M?どっち?という話題はそれなりに頻出する。

男が己がSかMか自己申告する割合が変化してきた

正直に答える義理なんて1ミリもないので、その時の気分と持ち前のバランス能力で他の女の子の回答を聞きながらウンとかスンとか言うのだけど、男の自己認識や作りたいパブリックイメージが如実に現れるので、実はこの話題は結構嫌いじゃない。

10代20代30代と生きてきて、同年代の男が「S」と自己申告する割合と「M」と自己紹介する割合が変化してきたように思う。定点観測している男に至っては、学生時代の飲み会で、「Mとか意味わかんない、俺ドSだから」と言っていた人が最近「コギャルに踏まれたい」と宣っている例もある。
それを指摘し、若くて尖ってたんだよ、だいたい飲み会の席じゃんと一蹴されることもある。なんとなく10代や20代の男性は、その嗜好を聞かれた時にSと言う人が多いのだ。

丸山議員の失言などで大分効力が弱まったとはいえ、お酒の席のことですから、という失言した人だけが使う変なレトリックは未だに蔓延っていて、尚且つあの頃は若かったし、という、考えてみれば全然理にかなっていない言い訳は健在だ。
お酒が好きな人がお酒の席のことですから、と言うのであれば、明太子が好きな私は「あれは明太子を食べながらでしたもの」と言いたいし、若い時は今よりも反射神経も視力も体力も優れているはずなので、お前の今のポテンシャルは少なくともその時のポテンシャル以下と思うのだけど。

 SかMなんて抱いて確認する以外で知ろうとしないでほしい
SかMなんて抱いて確認する以外で知ろうとしないでほしい

まぁ男の言い訳珍哲学は置いておいて、人の自己認識、そして自己申告なんていうものは信用ならない。

大体、SはサービスのSだから、相手を色々と性的な意味で攻め、よがるところを見るのが好きなのがS、Mは満足のMだから、自分があまり動かず相手に攻められて気持ちよくなるのが好きなのがMという私の記憶では及川奈央さんがよく言っていた理論も一定の支持を持っているが、Sは当然サディズムのSだしMはマゾヒズムのMなので、純粋に加虐趣味と被虐趣味のことと認識している人もいるし、命令する怖い人がSで従順に従ういい奴がMと漠然と把握している人もいるので、人のイメージ上のSやらMやらというのは結構一致しないことも多い。

それでも堂々と飲み会の席で「俺はドS」とか「私はドM」と不用意に言えるのは、何も若さやお酒のせいではなく、自分の分析が行き届いている証拠でもなく、S(or M)と思われたい!という気持ちがはっきりしているからだ。だから私は飲み会でこの種の質問が立ち現れ、明確な答えを出していく男たちをみるたびに、あの人はSなのか、この人もSなのか、と思うかわりに、あの人はSと思われたいのか、この人もSと思われたいのか、と思う。
そして、当然そこにはその人の性格や人あたりのようなものの傾向がある。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。
公式Twitter → https://twitter.com/suzumixxx

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