よみタイ

篠田節子「介護のうしろから『がん』が来た!」
認知症の母を介護しながら二十年。ようやく母が施設へ入所し、一息つけると思いきや――今度は自分が乳がんに!?
介護と執筆の合間に、治療法リサーチに病院選び……落ちこんでる暇なんてない!
直木賞作家・篠田節子が持ち前の観察眼と取材魂で綴る、闘病ドキュメント。

前回まではこちら→https://yomitai.jp/series/gangakita/

再建お披露目は、胸元ぱっくりドレスで

介護のうしろから「がん」が来た! 第30回

 術後のテープのかゆみは続いていた。

 ちなみに外科手術の傷口はガーゼを当てた上から絆創膏で留めるイメージが一般的ではあるかもしれないが、今回も、十年以上前に受けた子宮筋腫の手術の折も、ガーゼ+絆創膏は、手術直後のみで、すぐにガーゼは取ってしまった。子宮筋腫のときは、なんと透明な接着剤! 見た目は傷口丸出し。このときもかなりかゆかった。今回は傷口に直接テープだ。
 だがテーピング用テープには幸い細かな穴が開いているので、その上から市販のかゆみ止めを塗ることができる。それでも効果は一時的なものだ。
 かゆいかゆいと大騒ぎしても、「乳がん」の言葉の重苦しい響きと悲劇的なイメージからして、この程度のことだと周囲からは「何を贅沢なこと言ってやがる」とばかりに鼻で笑われる。
 
 そして術後一週間目の外来受診日が来た。
「ああ、けっこうかぶれていますね」
 テープを剥がすとN先生がうなずき、かぶれ止めのリンデロン軟膏を処方してくれた。
 さらに皮膚の上にテーピング専用皮膜剤をシュッシュッとスプレーし、その上からテーピングする。
 効く人と効かない人がいるけれど、と前置きして先生はその皮膜剤の小さなボトルを見せてくれた。
「『キャビロン』と言って、通販で買えますよ。三千円から四千円の間くらい。そのときによって値段が違うんだけど」
 そんなことでさっそくAmazonから「キャビロン」を入手。人によってはかぶれることがあるということだが、私にはけっこう効果があった。
 もちろん手術痕を留めたテープだけでなく、膝の痛みや筋肉保護のためのスポーツテーピングでも使える。そうした折にかゆくなる人は一度試してみるのもいいかもしれない。
 
 抜糸したこの時点で、傷口は完全にきれいになっているが、かぶれ止めを塗り、皮膜剤をスプレーした上からの、がっしりものものしいテーピングはまだまだ続く。
 しっかり留めておかないと、縫った痕が広がって目立つからだ。
 それだけではない。両胸の間からバストの下の部分を通り脇の下まで、中に入っているシリコンをぐぐっと持ち上げるようにテープで留める。
 手術痕については乳がんの手術のときから感覚が鈍くなっているのでそれほどではないが、この持ち上げテーピング部分がかゆい。シリコンがずり落ちないように、中でしっかり傷口がくっつくまでこのテーピングは剥がせない。左右の高さが違ってしまうと困るからだ。

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篠田節子

しのだ・せつこ●1955年東京都生まれ。作家。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
97年『ゴサインタン』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。『聖域』『夏の災厄』『廃院のミカエル』『長女たち』など著書多数。
撮影:露木聡子

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