2018.10.31
温存?切除? 病院はどこ? 決めるのは私
介護のうしろから「がん」が来た! 第3回
例によってイケメン先生が私の目を正面からみつめた。
「生検の結果ですが……がん細胞が発見されました」
三月十七日。少し早目に彼岸の墓参りを済ませた日の夕刻のことだ。
告知というより宣告、という言葉がぴったりの真剣な眼差し。「できるかぎりのことをします、頑張ってください」と、その表情が語っている。
ステージ1と2の間くらいの浸潤がん。続いてその他の検査結果について、詳細だがわかりやすい説明がある。初期の乳がんなので、きちんと治療すれば九割方助かると告げられた。
「だいじょうぶですか?」と先生が言葉を止めてこちらの顔を覗き込む。
あまりにも平然としているので、ショックのために茫然自失していると思われたようだが、クリニックから電話をもらった時点で結果はわかっていたので、すべて想定内だ。
還暦を過ぎてみれば身辺はがん患者だらけだ。可愛いさかりの子供を残して亡くなったフリーアナウンサーの悲劇は記憶に新しいが、私の周辺では乳がんで死んだ者はいない。
たとえば役所時代の先輩はセカンドオピニオンに従い、数年間放置した後、そろそろ大きくなってきたから、と手術したが、二泊三日で退院してきて予後は良好だ。
一緒に温泉に行ったが、温存手術のうえ、もともと赤ん坊の頭ほどもある巨乳なので、どこを取ったのか、手術痕さえわからない。
二十年来の友人もやはり温存手術だが、彼女はその後の放射線治療がなかなか辛かったらしい。
「私も最初はさっさと手術してさっぱりしたいと思ったけど、とにかくその前の検査とかセンチネル生検とかの段階から、どんどん落ち込むの。やっと終わったと思っても、その後の放射線治療とか憂鬱なことがたくさんあって。せっちゃん、たいへんなのは手術が終わった後だよ」
とはいえ、普通に生きている。美熟女ぶりは変わらず、センスの良い服の下の胸の膨らみもまったく以前と変わりない。
つまり手術はするとして、昔と違い、最近の主流は温存。術後の放射線治療が辛い場合もあるが、終わってしまえば、見た目もほとんど変わらず、生活に支障はきたさない。若くして発症すれば進行が速く危険だが、おばさんはめったに命は落とさない。
このときまで私の認識はこんな程度のものだった。ところが……。
手際よく必要な説明を終えた先生は、手術を行うにあたり紹介できる病院を数ヵ所挙げてくれた。
病気の性格上、病院とは長いつきあいになるそうなので(通院治療、定期検診、場合によっては緩和ケアまで)慎重に選び、速やかに結論を出さなければならない。
リストアップされていたのは、築地に二ヵ所、加えて有明、虎ノ門、それと地元でヤブと恐れられている某大病院。ヤブは除き選択肢は四つ。
クリニックで紹介状を書くので、週明けまでに決定して連絡するように、とのことだ。
続いて、病院に行く前に切除手術か温存手術か、どちらを希望するか決めておくようにと指示がある。