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藤原綾「女フリーランス・バツイチ・子なし 42歳からのシングル移住」

便利すぎる都会を離れて、不便のなかに楽しさを知る

農家の皆さん、今日もありがとうございます!

 霧島で暮らすようになって、私の試行錯誤は畑の作業になりました。畑を耕して畝を作り、苗を植えて、毎朝「みんな元気―?」と声を掛け、丸々と育った野菜を見ると言い知れない喜びがあふれます。それを調理して食べるのもまた一興。プロセスをすっ飛ばし、スーパーでお金を払って買うだけじゃ、決して得られない感覚です。
 そして、買った野菜だとしても、その背景を思うようになりました。目の前にあるすべてのものは、誰かの仕事によって生まれています。

 経済学というものは、ある種、どう生きるかを考える学問だと思うのですが、最近、経済と経営をごっちゃにして語る人が増えているように思います。何のために学部がわかれていると思っているんだろう?
 私企業による経営は利益を生み出す必要がありますが、国が行う経済政策は、むしろ民間がやっても儲からないことに投資をする必要があります。人間が生きていくために欠かせない水や食料の安全を図る、インフラを整える、教育をほどこす……ここに本来金儲けの理屈は存在しません。
 80年代のサッチャー政権が、小さな政府を推し進めて様々なことを民営化した結果、イギリスがボロボロになってしまった過去の事実があるにも関わらず、今、日本はその道を歩もうとしているようです。郵政民営化によって、サービスがどんどん低下してしまった結果を目の前にしながら、今度は水道の民営化が叫ばれています。
 そこにあるのは「お金」であって、まるで人間の存在は無視されているかのようです。社会的共通資本を市場原理に乗せてはならないという話を、移住して改めて深く実感するようになりました。

 東京にいると、目の前の景色が目まぐるしく変わっていきます。そして、そのスピードはどんどん速くなっています。
 何かが流行れば、あっという間にそのお店がそこここに生まれ、ブームが終わればすぐに姿を消しての繰り返し。情緒に溢れた原宿駅は、どこにでもある外観へと変わってしまい、外苑のイチョウ並木の一部はなくなってしまうかもしれません。
 そこにはお金儲けの価値観はあっても、そこで生きる人々の暮らしは何も考慮されていないように見えます。私が愛した鯔背いなせな故郷は、人間味が日に日にぼやけていきました。

 どうかどうか、東京の変容した価値観がこの場に持ち込まれませんように。
 お金があるからご飯が食べられるのではなくて、農家や畜産家の人がいて、それを運ぶ人がいて、それをお店に並べる人がいるから、だからご飯が食べられる。でも、東京ではその観点が忘れられつつあるように思います。
 I owe you. こうして毎日美味しい食事をとれるのも、安全な水が飲めるのも、温泉に入ることができるのも、それを供給してくれる人がいるから。私が働くのは、誰かに借りがあるからです。株でお金を稼いでも、その借りは返せません。
 みんなが誰かに借りを返すために、みんなが社会に供給をして、そうして世の中は回っている。それに気づいた時、世界はまったく違ったものに見えてくるのでした。

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藤原綾

1978年東京生まれ。編集者・ライター。早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社に就職するも、大企業の闇に触れて逃げるように宝島社に転職。ファッション誌の編集を経て2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙……と、節操なく仕事を受けてきた結果、幅広い業界で編集・執筆活動を行うことに。近年もブランドムック『ANNA SUI COLLECTION BOOK』、雑誌『小学一年生』、漫画『ごろごろにゃんすけ』(村里つむぎ)、書籍『つくるひとびと』(秋山竜次/ロバート)、小説『海の怪』(鈴木光司)、カタログ『LAZY SUSAN』など、極端なノンジャンルで活動中。

インスタグラム @id_aya

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